2024年01月19日 公開
IT×犬(猫)のサービス開発者。犬用ネームタグや保護犬のための『10円いぬねこ募金』などを開発。私生活では、愛犬・ラスカルとトリックやアジリティを楽しんでいる。
トリックやアジリティを通じて、愛犬と信頼関係を築くコツとは? ボーダーコリー・ラスカルくんと飼い主の岡田拓巳さんに聞きました。
目次
- トリックが大好きなボーダーコリー・ラスカルくんと飼い主の岡田拓巳さん
- 人も愛犬も楽しく! 小さな成功体験を積ませる
- 体だけでなく心も満たされる愛犬とのアジリティの魅力
- ブルーの瞳を持った子犬ラスカルくんに出会い「恋に落ちた」
- 愛犬のお世話に涙…問題行動の連続で、憂鬱だった過去も
- 第一子が生まれ、愛犬が優しいお兄ちゃんへと成長
- 愛犬と信頼関係を築くコツは「何があっても信じること」
- 「愛犬は人生の最高のパートナー」趣味も仕事もずっと一緒
トリックが大好きなボーダーコリー・ラスカルくんと飼い主の岡田拓巳さん
ワンちゃんの一発芸「トリック」。しつけとは違い、飼い主さんとワンちゃんが一緒に楽しみながら習得する遊びです。
犬の芸で定番の「お手」や「おかわり」もトリックの一種。ほかには、ハイタッチやあごのせ、スピン、鼻パク(鼻の上におやつを置き合図があるまで待つ)など、定番なものから難しいものまでさまざまな種類のトリックがあります。
ボーダーコリーのラスカルくんは、なんと60種類以上のトリックができるのだそう。飼い主の岡田拓巳さんと毎日練習をしています。
「トリックは、僕とラスカルにとって日々のコミュニケーションです。心のつながりを感じられると、ラスカルも『よきよき』といった満足げな表情をしてくれるんです(笑)」
岡田さんがInstagramに投稿するトリックの動画を見た人たちからは、『息がぴったり!』『うちの子もやってみたい!』など、感動と驚きの声が上がっています。
しかし2人がここまで信頼関係を築くまでには、たくさんの苦労や試行錯誤があったようです。今回は、これまでの道のりやワンちゃんにトリックを教えるコツを聞きました。
人も愛犬も楽しく! 小さな成功体験を積ませる
約2年前、ラスカルくんを迎えてすぐ、岡田さんは日々のコミュニケーションとしてトリックに挑戦し始めました。
一つのトリックを完成させるためのコツは、「小さな成功体験をたくさん踏ませ、自信をつけてあげること」だといいます。
たとえば、岡田さんが一番教えるのが難しかったという「Foot Stall」というトリックがあります。「Foot Stall」は、岡田さんが地面に寝転がり伸ばした足の裏にラスカルくんがジャンプして飛び乗るという技です。
最初は手のひらに裏返した靴を乗せ、落ちないようにサポートしながら、そこに乗ってみることから始めました。技の完成形に至る前に小さなステップを用意してあげ、できたらしっかりと褒める。それを繰り返すことで自信がつき、足に乗る恐怖心も徐々に和らいでいきました。
「人間相手であれば目指したい完成形を言葉で伝えられますが、犬にとっては知ったことではないですからね(笑)。飼い主が完成形ばかりを求めてしまうと、お互いストレスが溜まってしまいます。動きを細分化して、小さな成功の数をなるべく多く設定し、少しずつ成功の難易度を上げていく。それがトリックの基本的な教え方です」
トリック習得のコツは、「犬も人も楽しく!これがすべてです!」と岡田さん。
ワンちゃんが乗り気ではないときは無理強いせず、好きなおもちゃで遊び、次の日に5分だけ挑戦。前回よりも成長したらたくさん褒めてあげます。あくまで遊びとしてそのプロセスを楽しむことが、結果として信頼関係を育んでくれるそうです。
「ワンちゃんの性格によって、教え方は変わってくると思います。ラスカルは活発といわれるボーダーコリーの中では、意外と繊細でビビりな性格です。だからこそ、小さな成功体験を積むやり方が向いていると、いろいろ試すうちにわかってきました」
新しい技ができるようになったときには、岡田さんがうれしいことはもちろん、ラスカルくんもとてもうれしそうな顔をします。習得したトリックを他の人に見せて、拍手を浴びたり褒められたりすると、ラスカルくんはますます誇らしい表情をするそうです。
「できるようになったら、いろんな人に披露してたくさん褒めてもらってください。ワンちゃんもどんどん楽しくなるし、自信もついてくるはずです」
体だけでなく心も満たされる愛犬とのアジリティの魅力
岡田さんとラスカルくんは、「トリック」以外に、「アジリティ」にも挑戦中です。犬と人が一緒に走りながら障害物を乗り越え、タイムを競い合うドッグスポーツです。大会出場に向け、週に2回練習に取り組んでいます。
ラスカルくんが6ヶ月の頃、しつけの一環で通っていたトレーニング教室で初めてアジリティに挑戦しました。そのときのラスカルくんの気持ちよさそうな表情を見て、岡田さんは続けてみることにしたのです。
「ボーダーコリーはエネルギーが有り余っている犬種なので、時折アジリティで思いっきり走って発散してあげるのは大切だと思っています。たくさん運動をして身体的に満たされることももちろんですが、アジリティの魅力は飼い主とコミュニケーションをとるという、精神的な充実感も得られるところにあります。アジリティをした日の夜は、本当に満足そうな顔をするし、ぐっすり眠っていますね」
ラスカルくんは慎重な性格であることから、最初は障害物にも恐る恐る近づく様子だったそう。しかし、練習を積むことで一つひとつできることが増えてきています。
「アジリティは本当に深い世界なんです。僕がここで語っていいのかと不安になるくらい(笑)ハードルを飛ばせる方法だけでも数十種類あったり、人間の足の向き一つで犬の飛び方が変わってきたり……」
突き詰めるほどに奥が深いというアジリティ。岡田さんは「もっとたくさんの飼い主さんに挑戦してみてほしい」といいます。
速いスピードで障害物をこなしていく、アスリートのようなワンちゃんのための競技のイメージが強いかもしれませんが、実際の練習場では愛犬との趣味として楽しんでいる人たちが大半なのだとか。
「最初の頃は、障害物を無視してリンク内を暴走するのがあるあるです(笑)だから、大会に出場する気持ちがなくても、運動不足の解消やコミュニケーションをはかることを目的に、気軽に挑戦してみることをおすすめしたいです」
ブルーの瞳を持った子犬ラスカルくんに出会い「恋に落ちた」
岡田さんがトリックに関心を持ちはじめたのは、子どもの頃のこと。時間があれば、ボーダーコリーが飼い主とトリックを披露する海外の動画をよく見ていました。
「まるで人間同士が遊ぶように犬と意思疎通している様子に衝撃を受けました。飼い主だけでなく、ワンちゃんもすごくイキイキとした目をしていて。可愛い犬を愛でるというよりかは、なんなら喧嘩するくらいの勢いで一緒にいろんなことに挑戦できるような相棒が欲しかったんです」
岡田さんは小学生の頃、一緒に住む祖父が引き取った保護犬と暮らしていました。
バーンと打ったら撃たれたフリをするなど、ラスカルくんほどではないものの、祖父がトリックを教え、それに応えるワンちゃんの様子を直近で見ていました。
愛犬とのパートナーシップに憧れを抱くようになった原体験となっているそうです。
「1人でワンちゃんを飼うのは難しいとわかっていたので、自分が家庭を持った時には絶対にワンちゃんを迎えるぞと心に決めていました。結婚相手にも『犬を飼える人』を条件にしていたほどです(笑)」
「一緒にいろんなことに挑戦できる相棒」を求めていた岡田さんにとって、ボーダーコリーはぴったりの犬種。家族想いな性格や運動能力の高さ、アクティブさ、頭のよさは、どれも魅力的に映っていました。
それから何ヶ月もリサーチを進め、のびのびとした自然環境の中にあるボーダーコリー専門のブリーダーさんを見つけました。そのブリーダーさんのブログに、どんな環境で育てているのか、遺伝子検査やボーダーコリー特有の検査に関する情報などが掲載されているのを見て、岡田さんは信頼できそうだと感じ「ここのブリーダーさんから迎えたい」と心を決めます。
そして、新しく生まれた赤ちゃんたちの中で唯一残っていたのが、ブルーの瞳をした「ラスカルくん」だったのです。
「恋愛じゃないですけど、一目見た瞬間、いなずまが落ちるような衝撃で(笑)きれいなブルーの瞳が神秘的ですし、存在感があるなと。あとは、パピーなのにどこか生意気そうというか、小さい子が背伸びをしてカッコつけているような雰囲気が個人的にはツボだったんです(笑)僕は広島に住んでいるんですが、鹿児島まで行って一目見て即決でしたね」
愛犬のお世話に涙…問題行動の連続で、憂鬱だった過去も
いまでは、まるで言葉が通じるようにトリックを披露するラスカルくんですが、迎えてからのおよそ1年は「壮絶だった」と当時を振り返ります。
「まずは月齢3ヶ月までは、下痢をして部屋がうんちまみれになって、朝5時から掃除するなんてこともありました。ある日僕が上の階で仕事をしてリビングに降りてくると、部屋がおしっこまみれでした。当時、妻は妊娠中でお腹が大きくなっていたこともあり、大変すぎて泣いてしまうような日々で……」
人間の赤ちゃんとパピーの世話を同時にすることはあまりに大変なため、お子さんが生まれる6ヶ月前にラスカルくんを迎えました。それでも、岡田さんの手足を噛む、家具を噛む、ケージに入れても吠えるなど、ラスカルくんのパワーは想像以上だったそうです。
パピーならではのトレーニングが落ち着いてからは、今度は散歩中に他のワンちゃんに吠えるなど、攻撃性による問題行動が目立ってきました。
「吠えるのを止めようとして、流血するほど手を噛まれたこともあります。外に出る度にちょっと憂鬱になって喧嘩して帰ってくる繰り返し。ラスカルもよく怒られてショボーンとしていましたね」
問題行動が目立ってきたこともあり、ラスカルくんと岡田さんはトレーニング教室に通うことに。散歩で出会うボーダーコリーの飼い主さんに相談したり、毎日のように犬を横につけて歩かせる「脚側行進」の訓練をした結果、少しずつラスカルくんの問題行動は減っていきました。
第一子が生まれ、愛犬が優しいお兄ちゃんへと成長
ラスカルくんの問題行動が改善されていったきっかけの一つに、ラスカルくんが月齢6ヶ月の頃、岡田さんの第一子、愛称「チビカル」の誕生がありました。
ラスカルくんが9ヶ月になるまでは、なるべく触れ合わせないように心がけ、ベビーゲートの中には入ってはいけないこと、たとえ自分のおもちゃであってもチビカルくんが持っているものは取り上げてはいけないことなどを教え、少しずつ距離を詰めていきました。
「チビカルは大切な存在であるということを、時間をかけて教えていきました。いまでは、すっかり兄貴という感じです。チビカルにボールを譲ってあげたり、力を手加減しながら追いかけっこで遊んでくれたり、本当に優しいお兄ちゃんになりました」
愛犬と信頼関係を築くコツは「何があっても信じること」
問題行動も収まるだけでなく、今ではトリックやアジリティも上手にこなし、家族の中ではすっかり優しいお兄ちゃんとなったラスカルくん。
ラスカルくんとの信頼関係を築くために、岡田さんが心がけてきたこと。それは「何をするときも、自分が一番ラスカルのことを信じる」というものでした。
「難しいトリックもラスカルなら絶対できる、問題行動もラスカルなら絶対改善できると、信じてきたし、今も信じています。ワンちゃんは教えれば応えてくれますから、もしうまくいかないのであれば、変わるべきは飼い主のほうです」
トリックやアジリティ、問題行動の改善も、やり方に正解はありません。ラスカルくんと一緒に挑戦し、うまくいかなければ情報収集、そしてまたトライしてみるを繰り返してきたことが、今の岡田さんとラスカルくんの信頼関係につながっているのです。
「愛犬は人生の最高のパートナー」趣味も仕事もずっと一緒
ラスカルくんを迎える数年前、岡田さんはワンちゃんと飼い主のためのサービスや商品を開発する会社を設立しました。保護犬、保護猫団体へ毎日10円ずつ募金ができる『10円いぬねこ募金』をはじめ、現在「二次元コード」を通じて飼い主さんとワンちゃんがSNSなどの情報交換ができるサービスの開発に取り組んでいます。
コーポレートサイトを見てみると「取締役看板犬」としてラスカルくんのプロフィールが掲載されています。ラスカルくんも会社の一員であり、オフィスに出勤しているのです。
「お客さんが来たときのお出迎えと、広報を担当してくれています。一番フォロワー数が多いので、頭が上がりませんね(笑)寝言を言ったり、かまってほしそうに近づいてきたり、おならをしたり(笑)ラスカルがいるおかげで、笑顔の多い会社になっています」
平日は一緒に出勤し、休日はトリックの練習やアジリティに出かける。岡田さんとラスカルくんは、いつ何時も一緒です。
「ラスカルを迎えて人生がガラッと変わりました。どの家族よりも毎日長い時間一緒にいますし、遊びも仕事も趣味も全部一緒に楽しんでいます。人生の最高のパートナーができたことが何よりもうれしいです」
来年の2024年には、ラスカルくんとトリックの教え方を投稿するYoutubeチャンネルを開設する予定なのだとか。岡田さんとラスカルくんの挑戦は、これからも続いていきます。