2023年09月13日 更新 (2023年04月13日 公開)

約14万人の愛犬家のネットワークを築いた木崎亜紀さん
お散歩中やカフェにいるワンちゃんを見かけたとき、その可愛さからつい声をかけたくなりますよね。
しかし、もしそのワンちゃんが黄色のリボンや缶バッジを身につけていたら一旦ストップ!
「そっとしておいてほしい」という合図かもしれません。

2012年ごろからスウェーデンで始まった、犬にイエローサインをつける『イエロードッグプロジェクト』があります。
イエローサインは、あらゆる理由で《そっとしておいてほしい》ワンちゃんが黄色のリボンや缶バッジを身につけて意思表示をするというもの。「マタニティマーク」や「ヘルプマーク」と同様に、パッとみただけで周りの人が事情を理解し気配りができるような、そんなワンちゃんへの思いやりを形にしたのが、このプロジェクトです。
そこで、イエローサインを日本でより広めるために、『Yellow Ribbon Dog』(イエローリボンドッグ)というプロジェクトを木崎亜紀さんが立ち上げました。

木崎さんは『Yellow Ribbon Dog』(イエローリボンドッグ)のプロジェクトよりも前、2015年より迷子犬や輸血が必要なワンちゃんに関する情報拡散のサポートをおこなう『迷子犬の掲示板』を立ち上げ、SNSの合計フォロワー数が全国で約14万人が集う大きな“愛犬家ネットワーク”を築き上げてきました。
「目の前の困っている人をほっとけないだけなんです」と話す木崎さん。
8年以上もの間、ワンちゃんのための活動をおこなってきた木崎さんの原動力とは一体どんなところにあるのでしょうか? これまでやってきた取り組みと、今後叶えていきたいことについて伺いました。
犬の黄色いマーク『イエロードッグ』日本での認知度はまだ低い
海外の有名なイラストレーターがSNSでの啓蒙投稿をきっかけに、スウェーデンから広がった『イエロードッグ』。
黄色いリボンや小物などをリードに付けた、イエローサインをつけたワンちゃんのことです。
- 他の犬や人間が苦手
- トレーニング中
- 病気(怪我)療養中 など
理由はさまざまですが、お散歩中のワンちゃんがストレスなく過ごせるよう、身につけるアイテムで《そっとしておいてほしい》の意思表示をしてあげます。

木崎さんが飼っているワンちゃんはとても人懐っこい性格のため、『イエロードッグ』を知った当初は特に自分ごと化することはなかったのだそう。
しかし、ある日、木崎さんの友人のワンちゃんが黄色のリボンをつけている様子を見かけます。理由を聞いてみると「とても怖がりだから」との答え。
「ずっとつけているものの、誰も知らないんだよね……」と話す友人の言葉が引っかかりました。

当時すでに「迷子犬の掲示板」でたくさんの飼い主さんとつながりを持っていた木崎さん。そのネットワークを活かして『イエロードッグ』を広められないかと活動を始めることにしました。
リボンという象徴をより際立たせるため、木崎さん主体のプロジェクトは『Yellow Ribbon Dog』(イエローリボンドッグ)と命名。


「#イエローリボンドッグ広め隊」「#イエローリボンドッグ」というハッシュタグを用いて、各SNSでの普及活動を進めています。
国内での認知を広げるための1つの転機となったのが、2021年6月から作り始めた「はなれていてね!」というメッセージとイラストが描かれた缶バッジ。
『迷子犬の掲示板』の仲間が描いてくれた可愛いイラストに魅力を感じた木崎さんは、缶バッジの商品化に踏み切りました。
「黄色いリボンをつけているだけだと伝わりづらいというお声もあったので、どうしたら缶バッジで気持ちよく表現できるかをすごく意識しました」

「触らないで!」という強い拒否の言葉ではなく、子どもたちにも親しみやすいような優しいイラストと「はなれていてね!」という、柔らかいメッセージであることが飼い主さんにとっての使いやすさに繋がり、現在までに約2,000個の販売に至っています。
もし外で、黄色いアイテムを身につけているワンちゃんを見かけたら、近づかずにそっとしてあげましょう。
犬の避難用バッグに黄色い缶バッジ。イエローリボンの多様な使い方
イエローリボンをつけるワンちゃんたちには、さまざまな理由があります。
木崎さんの友人のワンちゃんのように「怖がりさん」という性格の理由もあれば、病気や怪我をしていたり、トレーニング中や生活の環境が変わり社会復帰のための訓練中など。人間にもいろんな事情を持った人がいるように、それぞれの事情を抱えたワンちゃんたちがいます。
木崎さん自身も、最初は「怖がりさん」からのニーズが高いだろうと想像していたところ、心臓が悪くて吠えると体に良くないワンちゃんや「今日はお腹が弱いから」とその日だけ缶バッジを身につけるワンちゃん、犬も人もたくさん集うイベントなどの公共の場で興奮してしまうワンちゃんなど、使われる理由は想像していた以上に多様であるといいます。
木崎さんの元に届くのは「悩んでいるのは自分だけじゃないとわかって安心した」という飼い主さんたちからの声。
「なんでうちの子は吠えちゃうんだろう」と落ち込んでいたけれど、自分たちと同じような悩みを持っている飼い主がいることや、ワンちゃんの気持ちを尊重しようとする人たちがたくさんいることが励みとなっているようです。
「災害が起きて避難所生活が続くときも役に立つと思います」と木崎さん。

木崎さんご自身は、犬の避難用のバッグにつけて、万が一の時のために備えをしています。
避難所ではワンちゃんが一箇所に集められる可能性もあるため、興奮させてしまっては大変です。そんな時は直径10cmの大きな黄色の缶バッジをつけて、子どもたちが触りに来ないように注意喚起することが可能です。

「直接は伝えにくくても、このマークがあればお子さんやその周りの大人が理解してくれると思います」
イエローリボンは、ワンちゃんと飼い主、そしてその周りにいる人たちとのコミュニケーションを円滑にしてくれる存在のようです。
イエローリボン啓発活動、『Yellow Ribbon Dog』プロジェクトへの想い
このようにイエローリボンが広まるとさまざまな場面で役に立つ一方で、「公共の場でも愛犬が大人しくいられるよう、責任を持ってトレーニングすべきでは?」と厳しい声が届くこともあるといいます。
「でも人間だってその場に馴染むのに時間がかかる人がいますよね。それと同じで、ワンちゃんにも本来持っている性格があることを理解してあげてほしいです」
いつもの犬友達しかいない場合だと心配がいらなくても、初めての場所では念のため黄色のリボンをつけておくなどにも使えます。
「その時のワンちゃんの様子を見て、飼い主さんの判断で気軽に使ってほしい」と話します。

「第三者から指摘を受けることがなくなるくらい、イエローリボンが当たり前の存在になってほしい」それが今の木崎さんの夢です。
現在は、ペットショップやペットサロン、動物病院、ドッグトレーニングの訓練所などを通じて『Yellow Ribbon Dog』(イエローリボンドッグ)のプロジェクトのカードや缶バッジを配るなど、より多くの接点をつくるために奮闘中なのだそう。
そこで、私たちにできることを聞いてみると、コンビニが「かけこみ110番」のステッカーを貼っているように、居酒屋や本屋など「犬が関係ない場所でもどんなところでもいいから、名刺カードを置いたり、ポップやステッカーを貼ってほしい」とのこと。

そして、もし缶バッジやリボンをきっかけにお散歩中の人と話すことがあれば、『Yellow Ribbon Dog』(イエローリボンドッグ)のプロジェクトのSNSをシェアしたり、カードを渡すこと。
イエローリボンの認知拡大が、さまざまな事情を抱えたワンちゃんたちの暮らしやすい社会へと繋がります。
地道な『一人ずつ伝えていく活動』もプロジェクトを広げる上で大切です。
「困っている人をほっとけない」愛犬家ネットワークの原動力
『Yellow Ribbon Dog』(イエローリボンドッグ)のプロジェクトよりも前に「迷子犬の掲示板」の活動を始めた木崎さんは、ワンちゃんのための活動を始めてからおおよそ8年が経ちました。
もともとペットに強い関心があったわけではなかったそうですが、当時小学生だったお子さんがご近所のワンちゃんと楽しそうに交流する様子を知り、2匹のワンちゃんを迎えました。

犬がいる暮らしを満喫していたある日のこと、友人のワンちゃんが迷子になってしまったことを知り「何かできることはないか」とSNSを活用した情報発信をスタートさせました。それが今の約14万人以上のフォロワー数を誇る『迷子犬の掲示板』の活動へと繋がっています。
「迷子犬がこんなに多いなんて知りませんでした。でも、友人の子が迷子犬になるということは、自分の子もいつそうなるかわからない、“明日は我が身”だと思ったんです」
目の前の困っている人を放って置けない、そんな自身の性格を「ただお節介なだけです(笑)」と振り返ります。
「でも、気にかけてくれる人が世の中にいると思えるだけで、目の前の人を少しはハッピーにできるかもしれないので」
ワンちゃんのために、社会のために、という大きな目的のためではなく、自分のできることを自分のできる範囲でやる。それが木崎さんの原動力なのだそう。
また、自分や親しい人のワンちゃんが迷子になった経験をきっかけに、この活動に参加する方も多いのだとか。
「経験して初めて自分ごとに感じられる人が多いと思います。それが積み重なって、ここまで大きな“愛犬家ネットワーク”になりました」
掲示板の運営に携わるボランティアスタッフたちも「少しでもワンちゃんのためになる活動に参加できるのがうれしい」と言ってくれるそう。
ボランティアを通じて社会に貢献できているという感覚は、精神的にも豊かさを与えてくれるもの。そういった“犬を想う人たち”が集うことで、スムーズな情報発信と多くの迷子犬の発見が叶っているのではないでしょうか。
「裏表なく真っ直ぐ生きる」犬たちが教えてくれること
改めて、木崎さんにとってワンちゃんとはどんな存在かを聞いてみると、「世界を広げてくれる存在」との答えが。
子どもを持つことで初めて学校や受験事情などを知るように、ワンちゃんと生活することで初めて、ペットに関する課題に自然とアンテナが貼られるようになったといいます。

「自分が犬を飼っていなければ、迷子犬もイエローリボンもここまで自分ごと化できなかったはず」
また、木崎さんが感じるワンちゃんの魅力は「裏表のない素直さ」。
「裏表なく真っ直ぐ生きることが私のモットーで、ワンちゃんはお手本のような存在ですね」
目の前の困っている人を放って置けない性格と、ワンちゃんが与えてくれる喜び、その両方が重なって木崎さんの8年以上もの歩みが築き上げられてきたようです。
最近では、犬にまつわる活動をしていくうちに、さまざまな社会問題やそれに向き合う方々の存在を知ったといいます。そして、イエローリボンの缶バッジの寄付などで保護犬譲渡会への支援も始めました。
「新しいお家に迎えられた元保護犬たちにも、ゆっくりとマイペースにお散歩を楽しんでもらいたいんです」
その根幹には「保護犬を家族に迎え入れる選択肢も知ってほしい」という木崎さんの特別な想いがあるそう。
また、譲渡直後のまだ環境に慣れていないワンちゃんは迷子になってしまうことも多いです。何かあった際には、もう一つの活動『迷子犬の掲示板』も役立つでしょう。
「ワンちゃんのために何かしたい」という方はもちろん、ご自分の飼われているワンちゃんが怖がりだったり、病気を持っていて「そっとしておいてもらえると助かる」という飼い主さんは、ぜひこの『Yellow Ribbon Dog』(イエローリボンドッグ)のプロジェクトの普及に参画してみてはいかがでしょうか?