驚き!ドイツの保護⽝たちを取り巻く環境。動物福祉先進国と⽇本の違いは︖ 「ティアハイム・ベルリン」で働いていた野原さんを直撃!

驚き!ドイツの保護⽝たちを取り巻く環境。動物福祉先進国と⽇本の違いは︖  「ティアハイム・ベルリン」で働いていた野原さんを直撃!

犬猫の殺処分問題について、皆さんはご存知ですか。動物福祉先進国とされるドイツでは、 殺処分は⾏われていません。日本との違いはどこにあるのでしょうか。今回は、ドイツ最大の保護施設「ティアハイム・ベルリン」で勤務経験のある野原さんにお話を伺いました。

ドイツ最⼤の保護施設「ティアハイム」ってどんなところ?

動物たちが保護される理由は日本と同じ?

ペットを家族の⼀員として⼤切にする⼈が多い⼀⽅で、⽇本ではまだ年間8万 5,000 頭以上の⽝や猫が保健所に引き取られ、うち3万 2,000 頭超が殺処分されています(※)。⼀⽅、世界でも動物福祉の先進国とされるドイツでは、 保護施設での動物の引き取りは⾏われていますが、殺処分は⾏われていません。この違いはどこにあるのか、編集部はドイツ最⼤ の保護施設「ティアハイム・ベルリン」で勤務経験のある野原真梨花さんにお話を伺ってみることにしました。

 ※出典 環境省「⽝・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況


教えてくれるのはこの方!

野原さんプロフィール写真

THP-NoharA 代表
野原 真梨花 さん

ドイツAkademie für Tiernaturheilkunde/Tiermedizin(ATM)校認定 動物自然療法士
動物看護助手/二級愛玩動物飼養管理士
ティアハイムベルリン元非常勤飼育員


ドイツの動物保護事情を学ぶため、大学ではドイツ文学ドイツ語学を専攻。 ドイツ滞在中は3か所の動物保護・啓発団体にてボランティア活動を経験。

現在は個人事業THP-NoharAの屋号の下活動中。 今年5月1日より、愛犬・愛猫のためのメール相談サブスクリプション「トナリノ」を展開する (現在絶賛クラウドファンディング中!)

▷野原さんのプロフィール詳細はこちら

 



―今⽇はよろしくお願いいたします。早速ですが、ティアハイム・ベルリンについて教えてください。

 

 野原真梨花さん(以下、野原):ティアハイムは、ドイツ各地に500か所以上 ある⺠間のシェルターです。運営しているのは各地域の保護団体で、国や地⽅公共団体ではありません。私が⾮常勤の職員として勤務していたティアハイム・ベルリンは全国のティアハイムの中でも最も規模が⼤きく、総⾯積は約 16万㎡。約 180 ⼈の職員がボランティアの協⼒を得ながら動物たちのケアに当たっています。

ドイツ最大の保護施設、ティアハイムベルリンの外観
ドイツ最大の保護施設、ティアハイムベルリンの外観


―広いですね!そんな規模の施設を⺠間の保護団体が運営しているとは驚きです。てっきり、公⽴の施設なのかと思っていました。

野原:ティアハイムでは、国や地⽅公共団体からの補助⾦の交付は受けていません。ただ、ベルリンでは⾏政が動物の保護施設を持っていないので、警察が路上などで保護した動物の管理を有償でティアハイムに委託することになっています。 ⾏政からティアハイムベルリンが受け取っているのは、その委託料くらいで、施設運営費のほとんどは寄付で賄われています。そのうちの約 6 割は遺産寄付です。

―ティアハイムには、どんな理由で引き取られる動物が多いのでしょうか?

野原:動物福祉先進国と⾔われているドイツですが、動物たちが施設に保護される理由は、⽇本とほぼ同じ。「飼えなくなった」とか「休暇中に⾯倒が⾒られないから」という飼い主の⾝勝⼿な理由で路上に放置されたり、施設に持ち込まれ たりする動物が後を絶たないのです。だからこそ、ティアハイムのような施設がたくさん存在しているということなんですよね。

―とても意外です。動物福祉先進国ドイツでも、そうなのですね。

野原:もちろん、意識が⾼く動物を⼤切にしている⼈も多いです。でも、思わず⽿を疑ってしまうような理由で飼っていた 動物を遺棄したり、施設に⾃ら持ち込んでくる飼い主さんも⼀定数いるということですね。ちなみに、ティアハイムでは動物を持ち込んできた飼い主さんからは、少額の引き取り料を受け取る仕組みになっています。⽝の譲渡は⽝種や性格(扱いやすさ)等により譲渡⾦額が変わりますが、現在の HP では最⼤ 250€(約 32,500 円)とされています。ちなみに 猫は 60~100€(約 7,800 円〜13,000 円)です。

⽇本では 2019 年に動物愛護法が改正され、保健所が所有者不明動物の引き取りも⼀部拒否できるようになりましたが、私の⾒ていた限りでは、ティアハイムが動物の引き取りを拒否したケースはありませんでした。

⽇本⼈の感覚だと「どんどん引き取ってしまうと、施設がパンクしてしまうのでは」と思ってしまいますが、ティアハイムの広報の⽅に聞いたところ、「その分、譲渡に出しているから⼤丈夫よ」ということでした。ペットショップがほとんどないドイツでは、動物を飼い始めるにあたって保護施設 ティアハイム内部から譲渡を受けるのがごく普通の選択肢として認識されているので、⽇本よりも譲渡率が⾼いのかもしれませんね。

保護施設ティアハイムで動物たちはどう過ごしているの?

ティアハイムとペットショップの犬舎


―引き取られた動物は、どのようなケアを受けるのですか?

野原:まず⼀定期間の検疫を受けます。検疫の結果、健康上の問題がない動物は飼育棟という建物に移動し、基本的にはそこで譲渡されるまでの⽇々を過ごします。飼育棟は複数あって、その⽝の性格に合わせて⼊居する飼育棟が決められることになっています。

ティアハイム・ベルリンの犬舎の様子
ティアハイム・ベルリンの見学可能エリアの様子
ティアハイム・ベルリンの犬舎の様子
犬舎の様子。犬は個室で区切られている

飼育棟は3か所だけ⼀般に公開されていて、この写真はそのうちの1つの一角を撮影したものです。建物は円筒形で、中央の空間をぐるっと取り囲むように個室タイプの⽝舎があり、⾒学に来た⼈は中央の空間から⽝たちの様⼦を観ることができるようになっています。

ティアハイム・ベルリンの犬舎に備わっている犬専用の出入り口

それぞれの犬舎には小さなテラスもついていて、犬たちは中と外を自由に⾏き来できるようになっているんですよ。もちろん、ボランティアのスタッフと⼀緒にドッグランで運動をしたり、散歩に行く時間も設けられています。


―快適そうですね!ここなら、⽝たちもあまりストレスを溜めずに過ごせそうです。


野原:
ドイツでは⽝の飼育環境に関する規則があって、「1⽇のうち⼀定時間、⽝が⽇光を浴びられるようにしなくてはならない」とか、「新鮮な空気が吸える環境にしなくてはならない」「⽇光が浴びられる場所に、犬が自分の意思で自由に行けるようにしなくてはならない」などと定められているんです。

なので、ドイツに1か所しかないと⾔われている犬猫の生体販売をしているペットショップも、この⽝舎のような構造になっているんですよ。

ドイツのペットショップの犬舎
ドイツ唯⼀とされる犬猫の生体販売をしている大型ペットショップの⽝舎。⼗分な広さと、外へ出⼊り⾃由な扉が⽤意されている。
ドイツのペットショップにある寄付ボックス
ペットショップ内に設置されている寄付ボックス

物品寄付のコーナーに設置されたボックスへ、このペットショップで寄付のために購入したものや、自宅で不要になったもの等をお客さんが入れていきます。ボックスがいっぱいになったら、そのペットショップが支援している特定のティアハイムへ寄付される仕組みになっています。動物保護・啓発団体のパンフレット等もここから持ち帰ることができるんですよ。


―⽝の譲渡はどのように⾏われるのでしょうか?

野原:⾒学に来て、譲渡を受けたい⽝が⾒つかった場合は、職員に申し出て⾯談を受けることになります。⾯談では家族構成や勤務時間、住居環境や経済状況について確認され、ティアハイムが設けた厳しい条件をクリアした場合のみ、 譲渡が認められることになります。譲渡決定後は5⽇間程度のトライアル期間があって、住環境になじめるかどうか、先住⽝との相性が良いかどうかなどを確認した上で、正規に引き取ることができるようになっています。⼈に慣れていない⽝や性格的に難しい⽝の場合は、譲渡の前に定期的にティアハイムに通って⼀緒に遊んだり散歩をしたりして交流を深め、⽝との信頼関係ができてから、家に連れ帰ることになっていて、⻑い場合は譲渡までに半年以上かかることもあるそうです。ティアハイムにとってのゴールは「譲渡すること」ではなく、譲渡先で⽝たちが安⼼して幸せに暮らすこと。だからこそ、譲渡にこんなに時間と⼿間をかけているのです。

⽇本とドイツで、動物福祉への姿勢はどう違う?

ドッグオーナーの犬への接し方


―野原さんはドイツで実際に暮らしてみて、⽇本とドイツとで動物に対する考え⽅の違いを感じたことはありますか?

野原:⾔葉にするのが難しいのですが、ドイツ⼈って⽝をとても⼤切にしてはいても、⽝を擬⼈化したり、⼈と⽝を同じ「種」として扱うことはないんですよね。あくまでも⽝は⽝、⼈は⼈という線引きがきっちりしているように感じました。でも、⽝を社会の⼀員として認めているので、⽝が社会の中で幸せに過ごせるようにするためのトレーニングには、とても熱⼼。トレーニングの際は⽝だけでなく、飼い主さんも⼀緒にトレーニングを受けることが多いようです。ドイツではレストランや公共交通機関を⽝と⼀緒するのが当たり前のように認められていますが、それは吠えたり噛んだりしないように、トレーニングできていることが⼤前提だからです。

ドイツでも、ペットを家族の⼀員として⼤切にしている⽅は多いですが、家族であっても、⽝としての習性の正しい知識を 持って接していくことが⼤切だと私は考えています。例えば、よく⽇本のテレビなどで「⽝の可愛い仕草」として取り上げられ る映像の中で、⽝が⼈に対して⽿を後方へ下げ体を硬直させたリアクションをとっていることがあります。きちんと⽝を理解している⼈であれば、それが⽝の「ストレスサイン」であることにすぐに気がつくことができますが、その映像を⾒た多くの⼈が誤解し、これは⽝の「可愛い仕草」だと認識してしまうことは、とても残念です。そのまま放置していると、いつか咬傷事故が起こってしまうかもしれません。その結果飼育放棄されてしまう可能性もあります。もちろん全てが全て、この通りではないですが、⽇本でこのような場⾯を⽬撃すると、とても⼼が痛みますね。

―動物福祉について、⽇本とドイツの違いを感じることはありましたか?


野原:ありました。まず、ドイツは動物福祉の対象がすごく広いんですよね。⽇本では動物福祉と⾔うと⽝や猫がクローズアップされることが多いですが、ドイツでは動物種全体の話になるんですよ。家庭で飼育されている動物はもちろん、畜産動物や実験動物、動物園動物までありとあらゆる動物が動物福祉の対象としてとらえられています。 たとえばスーパーで売られている⽟⼦にすら、ドイツ⼈の動物福祉への姿勢がよく表れています。

ドイツのスーパーで売られている卵。表面に文字が印字されている。

この写真を⾒ていただくと、1つひとつの⽟⼦に数字と アルファベットが印字されているのがお分かりになると思うのですが、頭の数字は、この⽟⼦を産んだ鶏が飼育されていた環境を⽰しています。

0は「エコな環境で育てられました」という意味、
1は「放牧環境で育てました」という意味、
2は「平飼いで育てました」という意味、
3は動物福祉的には最も悪い「ケージの中で飼育されました(バタリー飼育)」の意味
です。

その次のアルファベットは ⽣産国を指していて、たとえば DE は「ドイツ」⽣まれの⽟⼦ということになります。そして、アルファベットに続く数字は、飼育農場の認識番号を⽰しています。

これが、普通のスーパーなどで売られている安い⽟⼦にもすべて印字されていて、パッケージを⾒れば⾃分が⼝にする⽟⼦がどんな環境で育てられたものかが、⼀⽬でわかるようになっているんです。すごいですよね。ドイツで暮らしていると、こんなふうに動物福祉に想いを馳せる機会が多くて、ことあるごとに動物たちがいかに⼈間の⽣活 と深くかかわっているのかを実感させられるのです。動物福祉との向き合い⽅という意味では、これが⽇本とドイツの根本的な違いではないかなと思っています。

⽇本の動物福祉向上のために、私たちができることは?

WanQol読者へメッセージ


―⽇本の動物福祉向上のためには、何が必要だと思いますか?


野原:⽇本では「動物福祉」とか「動物愛護」というと、「⼀部の動物好きの⼈の話でしょ。私には関係ないわ」と思っている⼈が 多いと思うのですが、決してそんなことはありません。たとえペットを飼っていなくても、私たちの⽣活は本当に多くの動物との関わりの上で成り⽴っているんだということをもっと多くの⼈に実感してもらうことができたら、⽇本の動物福祉はさらに前進するのではないかと思っています。
あとは、当たり前のことですが、飼い主さん1⼈ひとりが、⾃分の⽝や猫をしっかり愛してあげることが⼤切だと思います。

例えば、もう少し愛⽝と過ごす時間を増やしてあげてみてください。愛⽝はきっと⼤喜びするはずですし、その様⼦を⾒ていたら、飼い主さんもきっと笑顔になりますよね。楽しそうに過ごしている飼い主さんと愛⽝の姿って周囲の⼈にポジティブな影響を及ぼす⼒があるので、⾒ている⼈が「⽝っていいな」とか「私も⽝と楽しく暮らしたいな」と思うかもしれません。それこそが、 動物福祉に興味をもってもらうための、第1歩なのではないでしょうか。

そして、「その動物種に関してもっと知りたい」であったり、「動物福祉ってどういうことをいうの?⾃分はできているかな?」という視点を持って、それにまつわる知識を得るための⾏動(本、セミナー、トレーナー等⽝のプロにコンタクトをとるなど)に繋げてもらえたら嬉しく思います。

ペットに関する”プロ”は⾃称他称たくさんいますが、1つ知っておいて頂きたいのは、獣医もトレーナーも他のプロも⼈間な ので、やはり合う・合わないが存在するということです。獣医さんがこう⾔ったからこうなんだ、トレーナーさんがこの⼦はダメだ と⾔ったからもうダメなんだと思わずに、セカンドオピニオンとして別の専⾨家の意⾒を是⾮聞いてください。 特に⽝のトレーニングに関してはこのような話をよく⽿にするので、プロと⾔っても、考え⽅や知識、やり⽅はピンキリだということを認識しておいて頂きたいというのが私の願いですね。

野原さんと犬


―なるほど、確かにそうですね。野原さんご⾃⾝は、今後、どんな活動をしていこうと考えていらっしゃいますか?

野原:昨年、⽇本で開業し、ドイツで学んだ動物の⾃然療法を⽇本の飼い主さんに知っていただく活動に取り組んできました。 今年はサービス内容を刷新し、5⽉に⽝猫に関するメール相談ができる新サービス「トナリノ」をリリースする予定で、現在立ち上げのためのクラウドファンディングを行っています。お寄せいただいた愛⽝・愛猫の⾏動に関する不安や疑問に、(必要に応じて各分野のアドバイザーと相談しながら)私が相談に乗るというもので、もちろん、すべての質問に「正解」を⽤意できるわけではないですが、飼い主さんのお気持ちに寄り添って ⼀緒に解決策を探り、愛⽝や愛猫とより良い⽣活を実現するための伴⾛者でありたいと願っています。

「トナリノ」クラウドファンディング: https://camp-fire.jp/projects/view/389114


※今回の記事はあくまで私の原体験であり、肌感覚の話も多く含まれるため、ドイツ全体の話ではありません。


―楽しみです!野原さん、今⽇はありがとうございました。次はぜひ動物⾃然療法のお話も聞かせてください。

著者プロフィール

わんクォール編集部

わんクォール編集部

カインズ・ペットメディア推進室のWanQol編集チームです。わんちゃんとオーナー...

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