2023年09月27日 更新 (2023年06月28日 公開)

レシピサイト「白ごはん.com」の運営者・冨田ただすけさんと愛犬・ちゃこちゃん
「白ごはん.com」という和食中心のレシピサイトをご存じでしょうか?
1日で60万PV、年間2億PVを超える人気サイトで、料理ビギナーから料理好きの方まで幅広い指示を集めているレシピサイトです。
運営するのは、料理研究家の冨田ただすけさん。2008年のサイトオープン当初から現在まで、レシピ考案から料理の撮影、スタイリング、サイトの運営まで、ひとりで行っています。

そんな冨田さんのSNSにしばしば登場するのが愛犬のちゃこちゃんです。その愛くるしい姿と、冨田さんの愛情いっぱいの姿が人気を呼び、料理だけでなくちゃこちゃんの登場を心待ちにしているファンも多いといいます。

生後3ヶ月の時に冨田家にやってきて家族になったちゃこちゃんは元保護犬です。その出会いから、迎え入れたことで起きた変化まで、冨田さんにじっくりとお話を伺いました。
「いつか犬と暮らすなら保護犬がいいね」譲渡会で出会ったちゃこ
冨田さんは奥さんと娘さんとの3人家族。冨田さんも奥さんも子どもの頃から犬を飼った経験があり「子どもが大きくなったら、犬を飼いたいね」と話していました。
娘さんが小学3年生になり、ちゃんと自分の意志で「犬を飼いたい」と伝えてくれるようになったことから、「そろそろ犬を迎えよう」と家族会議。義姉が保護犬の預かりボランティアをしていたこともあり、犬を迎える時が来たら「保護犬にしよう」と以前から決めていました。
全国にはさまざまな動物保護を行っている団体がいて、人間の都合で手放されてしまった犬や猫などの動物たちを次の家庭へと譲り渡す「譲渡会」を行っています。冨田さんもその譲渡会でちゃこちゃんと出会いました。
「ちゃこのことは保護犬のサイトで事前に見ていたんです。保護団体さんとコンタクトを取り、譲渡会にちゃこが参加することを確認した上で会いにいきました」
冨田さんは、娘にとって初めての犬飼育となるため、長く生活ができ、一緒に成長していくような、1〜2歳の子がいいと考えていたそう。
サイトで探しはじめて「この子だ!」と思ったのが生後3ヶ月のちゃこちゃんでした。
保護犬を譲渡するにあたっては、各保護団体によって条件や審査が設けられています。主に、犬を飼育する経済能力があるか、家族全員の同意が得られている、飼育できる環境に住んでいるか、飼育困難になった時の預け先が確保できるかなど、引き取った後に犬が幸せに暮らすことができ、最後まで責任を持って飼育できるかを確認するものです。

「僕たちの場合は『犬を飼った経験は?』『日中どの程度家にいますか?』などのヒアリングがありました。保護団体さんは、家族として迎え入れるなら、なるべく一緒に過ごしてくれる家庭へ譲渡したいとの想いがあるのだと思います。幸いなことに、僕は自営業で家で仕事をしていましたし、そのほかの条件もクリアをして引き取ることができました」
食糞・食べ渋り…保護犬との暮らしで生まれた小さな悩み
はじめて譲渡会で会ったちゃこちゃんは、おとなしいながらも人懐っこく近づいてきてくれました。
実はちゃこちゃんは、多頭飼いが崩壊し劣悪な環境から救出された子です。

当時、お腹に寄生虫がいたため、完治してからトライアルをすることにしましょう、と保護団体の方からお話をされました。しかし、冨田さんは「できることは自分たちで面倒をみてあげたい」と申し出ます。
「保護団体さんや預かりボランティアさんたちの負担や大変さをある程度知っていましたし、もし今後家族になる子であれば、自分たちで責任をもって病気の治療にも向き合いたいと思ったんです」
トライアル期間も病院通いをすることを約束し、すぐにトライアルにへと進みました。

ちゃこちゃんは意外にもすぐに冨田家の環境に馴染み、1ヶ月のトライアルを経て、正式に冨田家へ仲間入りを果たしました。ですが、毎日の通院に加えて、困ったことが起きました。それはちゃこちゃんの「食糞癖」です。
「これは想像でしかないのですが、劣悪な環境にいたためにご飯を十分に食べることができず食糞癖がついてしまったのだと思います」
食糞をしてしまうと、お腹の寄生虫を便からまた摂取してしまうことになり、病気の治療にもよくありません。そのため、ちゃこちゃんの便をすぐに片付けられるようにと、冨田さんは常に目を離さずにいました。冨田さんも最初は戸惑ったものの、次第に食糞癖はなくなっていったといいます。
また、ちゃこちゃんの食べムラに悩んだこともあります。そこで、おいしく食べてくれるように、とちゃこちゃん用のトッピングメニューを用意したりと、家族で工夫をしました。
「冷蔵庫にあるお野菜を刻んで、鶏肉を入れてぐつぐつ煮込み、それをドッグフードにかけるんです。最近では僕も仕事の合間に、あるものでササっと作って、冷凍ストックをしていつでも食べられるようにしています。ジャガイモ・サツマイモ、ニンジン、キャベツなど、使う食材は様々。冷蔵庫の中身によって具材も変わります」

ヘルシーでおいしいご飯とたくさんの愛情を受けて、ちゃこちゃんはスクスクと成長していきました。
家族と協力して乗り越える愛犬の「分離不安症」
ペキニーズの血が入ったMIX犬のちゃこちゃん。もともと貴族の愛玩犬として愛されてきたペキニーズは、一般的に気位が高く、自立心が強いといわれています。ちゃこちゃんも内弁慶で、ツンデレ、あまりベタベタと近寄ってはこない性格なのだとか。

「でも、遊んでほしいスイッチが入ったときや、食べ物がらみのとき、誰かが出かけそうなとき、ピンポンが鳴ったり気になる音がするときは寄ってくるんですよね(笑)」
そんなちゃこちゃんですが、分離不安症気味で、お留守番や離れることに対しては不安を感じやすいといいます。

犬の分離不安症とは、飼い主さんの姿が見えなくなることで大きな不安を感じ、長時間にわたり吠え続けたり、鳴き続けたり、物の破壊や粗相といった問題行動をしてしまうことです。
「コロナ禍になる前は月に2、3回はちゃこを留守番させて、日中に家族と出かける日もありました。ですが、コロナ禍になって家で過ごす時間が長かった分、ちゃこは一緒にいる安心感を覚えたようです。繊細な性格なこともあり、家族と離れて過ごすことにストレスを感じるようになってしまったのかもしれません」
冨田さんは自営業ということもあり、仕事場や食材の買い出しへも、ちゃこちゃんと一緒に行くようにしているのだとか。夫婦で出かける際や家族旅行も、どこでも一緒です。どうしても連れて行けない場合は、高校生の娘さんが留守番をして面倒を見るなど、家族の中で工夫しながら過ごしているそうです。
「ちゃこと唯一離れる時間はトリミングの時のみですね。その時間は、家族3人で『よっしゃ、映画に行こう!』ってなります(笑)。かといって、常に一緒にいることが負担に感じることはありません。もちろん、できないことは多いけれど、ちゃこが一緒にいてくれることを思えば大したことないですよ!」冨田さんは笑顔で教えてくれました。

ひとりっ子の娘さんにとって、ちゃこちゃんは兄弟のような関係だといいます。高校生になった今でも、お休みの日にはちゃこちゃんの散歩に繰り出しています。
夫婦2人で行く愛犬の散歩。毎日のルーティンで会話が増えた
普段は、毎日奥さんと一緒にちゃこちゃんとの散歩に出かけることが冨田さんの日課です。パソコン仕事が多く、家にこもりがちな冨田さんの、体を動かすいいきっかけにもなっているそう。
どんなに忙しい日でも、ちゃこちゃんの散歩の時間を確保するようにしている冨田さん。
「実はちゃこを飼い始めて3年ぐらいは、僕の仕事が忙しくてお世話は妻と娘に任せきりだったんです。もちろん散歩に行ける時には行くようにしていましたが、今のように必ず毎日行くような感じではなくて……」
日々の散歩を通して、奥さんといろんな話をしたり、ちゃこちゃんの日々の様子を自分の目で確認できたり、家族とのコミュニケーションの機会が増えました。

家で毎日一緒に過ごしていても、映画やネットを見たり、本を読んで過ごしたりと、何かしてしまいがち。
「実は夫婦でゆっくりと会話をする機会ってなかったりするんですよね。でも、散歩をすると、どんどん会話が生まれるんです。周りからは『毎日一緒にいて、そんなに話すことあるの?』ってよく言われます(笑)。だけど、ちゃこが元気にトコトコ歩いている姿をうしろから妻と一緒に眺めているだけで嬉しいんです。きっと妻も同じように感じてくれていると思います」
夫婦の会話が増えて、家族の時間がより豊かになったことを「ちゃこのおかげ」と冨田さんは笑います。
愛犬がいるライフスタイルを大切にしたら、仕事にも良い影響が
ちゃこちゃんとの暮らしは、冨田さんの仕事にも変化をもたらしました。
レシピサイトの運営においては、旬の情報や新しいレシピが常に求められるので、ときには飲食店に足を運んで料理を研究&インプットをしなければならないと思っていました。そして、それをレシピに反映させることもありました。
けれど、徐々にそのやり方に少し違和感を感じるようになっていったのだそうです。

わざわざ材料を買ってきて特別な料理を作るより、暮らしのなかで工夫をして毎日のご飯を豊かにする方が自分らしいのではないか……。
畑をやっている義両親のおかげで、いただき物の野菜もたくさんあります。冨田さんは旬のおいしい食材を使って、背伸びをせず毎日食べれる家庭料理に軸足を置くようになっていきました。
「直接的な影響はないかもしれないけど、ちゃこと暮らす穏やかな日々のなかで、自分のスタイルも確立されていったのだと思います」
毎年、ちゃこちゃんのお誕生日にはスペシャルパンケーキを焼いて家族でお祝いをしています。

毎日が愛おしくなるちゃこちゃんとの暮らしがあるから、素敵なレシピがたくさん生まれているのではないでしょうか。
「どんな出会いでも愛おしい存在」保護犬も選択肢のひとつに
このように保護犬ちゃこちゃんとの出会いから、冨田さん一家にはさまざまな変化が訪れました。良いことも大変なことも、一緒に乗り越えていくからこそ、家族の絆はより深まります。
そんな冨田さんは、犬を迎えるときに保護犬も選択肢のひとつに入れてもらえたらうれしいと語ります。

「我が家は義姉が預かりボランティアをしていたこともあり、保護犬という選択肢を見据えることができましたが、どんな出会いであっても、愛犬は大切で愛おしい存在になってくれると思います。保護犬を家族に迎え入れることは、大変な面もあるかもしれません。でも、振り返ると全部いい思い出です。ちゃことの暮らしは毎日喜びで溢れていますよ」
冨田さんは「白ごはん.com」の通販サイトで、いつかちゃこちゃんのオリジナルのお皿を作って売上の一部を保護団体へ寄付したいという想いを教えてくれました。
人と犬が出会い、お互いが幸せに暮らしていく。そんな犬が1匹でも増えることを願って。
