2023年09月16日 更新 (2023年09月15日 公開)

大好きな愛犬・チャコを自由研究の対象にした小学生のしゅん君
SNSで世界中の人とリアルタイムに繋がり、情報を共有できる時代。何気なく呟いた一言が大きな反響を呼び、思いがけない経験をする人も少なくありません。
千葉県に住む小学3年生の男の子・しゅん君もその一人。

今から1年前の2022年の夏休み、小学校2年生だったしゅん君が愛犬チャコちゃんについて調べた自由研究を、しゅん君のお父さんがSNSで紹介したところ、約12万もの「いいね!」が寄せられ、テレビや新聞でも取り上げられるなど大きな注目を集めました。

そして、ついに今年7月にはしゅん君の自由研究は絵本となって出版され、再び多くの人に感動を与えています。
小学2年生の男の子が鉛筆で書いたシンプルな自由研究が、なぜこんなにも多くの人の心を掴んでいるのでしょうか? 今も仲良く暮らすしゅん君とチャコちゃんについて、しゅん君のお父さんにお話を伺いました。
愛犬への真っ直ぐな想いに感動! SNSで大反響を呼んだ自由研究
「息子の自由研究です。汚い字ですが、読んでみてください」
2022年8月25日、しゅん君のお父さんは、こんなシンプルなコメントとともに、しゅん君が仕上げたばかりの夏休みの自由研究を撮影した写真4枚を投稿しました。


1枚目の写真には、しゅん君がチャコちゃんを自由研究のテーマにした「どうき」や「もくてき」、「しらべかた」を書いたページ、2枚目には「けっか」、3枚目には「こうさつ」がまとめられており、4枚目には「かんそう」として、次の文章が綴られていました。
これからもっとおばあちゃんになるから ぼくがチャコのめんどうをみて、ながいきさせる。
「このSNSのアカウントは、もともと愛犬と息子の様子を投稿するために開設したものです。この日の投稿も、普段からチャコや息子の写真を楽しみしてくれるフォロワーさんへの近況報告のつもりで、深く考えずに投稿しました。しゅんがチャコをテーマに自分なりに調べて、その結果、『これからもっとおばあちゃんになるから ぼくがチャコのめんどうをみて、ながいきさせる』って書いていたのが何だか嬉しくて、フォロワーさんたちにも見てほしかったんですよね」
しかし、この投稿は予想だにしない大反響を呼び、お父さんのスマートフォンはSNSの通知が鳴りやまない状態が続きました。自由研究の投稿だけでなく、過去に投稿したチャコちゃんしゅん君の写真にも、たくさんの「いいね!」や「コメント」が寄せられました。
投稿前は200人足らずだったフォロワーも一気に5000人くらいに増えたそうです。
「ちょっと怖くなってしまうほどの大反響で、ただただ驚きましたね。自由研究も普段投稿している写真も、すべて我が家の日常なんです。こんなに何でもない日常の風景が、なぜこんなに反響を呼んだのか、正直わかりませんでした」
親→兄弟→おばあちゃん…いろんな立場で息子を見守ってくれた愛犬
多くの人の心に響いた、しゅん君家族の「日常」。始まりは、今から16年前。しゅん君が生まれる7年も前のことでした。
しゅん君のお父さんも、もともと犬が大好きで、物心のついたころからずっと犬と暮らしていました。あるとき、以前から大好きだった柴犬を家族に迎えたいと思い、柴犬専門店に出向いたのだそう。そこで出会った子犬の中にいたのが、チャコちゃんでした。
「どの子犬も可愛かったのですが、チャコはすごく不安そうで、抱っこしてみると震えていました。その様子がとても可愛らしくて、家族に迎えることにしました」

お父さんの元に来てからも、チャコちゃんは基本的に怖がりでビビりな性格のまま。意外にも神経質で気難しいところもあるワンちゃんでした。特に雷や大きな音が苦手で、恐怖のあまり逃げ出そうとして壁に穴をあけてしまったこともあるのだとか。
そんなチャコちゃんの暮らしぶりが一変したのは、しゅん君の誕生がきっかけでした。
家に飼い主さんの赤ちゃんが生まれると警戒したり、気持ちが不安定になる犬も珍しくありませんが、チャコちゃんの場合は、その真逆。しゅん君が家にやってきたその日からぴったりとしゅん君に寄り添い、見守ってくれたのだそうです。今でもお父さんが懐かしく思い出すのは、チャコちゃんがしゅん君を上手に寝かしつけてくれていたこと。

初めての子育てということもあって、しゅん君の寝かしつけに時間がかかっていたというお父さん・お母さんに対して、チャコちゃんは本当に寝かしつけが上手。あっという間に寝かしつけを終えてリビングに戻ってきて、得意げな表情をしていたそうです。
「当時のチャコは、本当にお母さんのようにしゅんを守って大切にしてくれていたんだと思います」
それから月日が経ち、親子のようだったチャコちゃんとしゅん君の関係は、しゅん君が成長するとともに親子→仲の良い兄弟へと変化してきました。

そして、チャコちゃんが年を取った今、チャコちゃんとしゅん君は仲の良いおばあちゃんと孫のような関係に。
かつてチャコちゃんにお世話されていたしゅん君が、今では目や耳が遠くなったチャコちゃんを散歩に連れていったり水の場所を教えたり、通院に付き添ったりして、生活をサポートするようになりました。
変わらないのは、今も2人が毎晩、一緒に眠っていること。
「しゅんが生まれてから9年間、しゅんとチャコはほぼ毎日一緒に寝ています。柴犬は老犬になると認知障害が出て夜中に徘徊したり、鳴き続けたりするケースが多いそうですが、チャコの場合はまったくそれがないんです。むしろしゅんのそばで安心しているのか、毎晩、本当にぐっすりと眠ってくれるので、私たちもとても助かっています。チャコは年をとって昼間の生活は少しずつ変わってきているのですが、2人で仲良く安心して眠っている姿だけは、9年間ずっと変わらないですね」とお父さん。

こんな2人の仲良しぶりを間近に見てきたせいか、2022年の夏休み、しゅん君が宿題の「自由研究」の研究対象をチャコちゃんにしたと聞いたときも、お父さんはまったく驚かなかったといいます。
9年間ずっと一緒にいるふたりだからわかる、愛犬の気持ち
「夏休みに入ったばかりのころに、しゅんから『自由研究って何を研究するの?』と聞かれたときには、『自由研究なんだから、自由にしゅんが好きなものを研究したらいいよ』って言ったんです。そしたら、しゅんはチャコをテーマに選んだんです。あとになって聞いたら、なんとチャコがしゅんに『調べてほしい』って顔をしていたらしいんですよ(笑)」
実際、しゅん君の自由研究の<どうき>には、次のように書いてありました。
<どうき>
- ちゃこがかわいかったから
- チャコがわたしをしらべてほしいってかおをしていたから
チャコちゃんの「わたしをしらべてほしい」という顔は、9年間を一番近くですごしたしゅん君にしか、読み取れない表情だったに違いありません。
こうして始まったしゅん君の自由研究。
本を読んだりチャコちゃんを観察したり、チャコちゃんの通院についていって動物病院の先生に質問したり、と2年生らしい方法で研究を続け、
「なんで昼は寝るのに夜は寝ないのか」
「なぜ赤ちゃんになったりピラニア(※)になるのか」
「鼻はなんで黒いのか」
そしてもっとも難しい「なんでこんなにかわいいのか」という謎に挑んでいきます。
(※チャコちゃんが歯をむいた表情のこと。しゅん君の家ではよく使われている呼び名)

息子が優しい子に育ったのは、100%愛犬・チャコのおかげ
そして3週間をかけて完成したのが、しゅん君の生まれて初めての自由研究『ぼくとチャコ』です。
研究中はほぼノータッチだったというお父さん。「初めてこの研究を目にした時は、率直に優しい子に育って嬉しい、と思いましたね」と話します。
これからもっとおばあちゃんになるから ぼくがチャコのめんどうをみて、ながいきさせる。
「うちには特に明確な教育方針みたいなものはなくて、日ごろから言って聞かせているのは『物を大切にしなさい』と『人に迷惑をかけてはいけないよ』ということだけ。『動物に優しくしなさい』と言ったことは一度もないんですよ。でも、嬉しいことにしゅんは動物にすごく優しい子に育ってくれました。それは100%、チャコのおかげだと思います。どんなときも優しくしゅんに寄り添い、愛情を注いでくれたチャコのおかげです」
その嬉しさとともにSNSに投稿した写真が大反響を呼んだのは、冒頭でご紹介したとおり。
たくさんの「いいね!」やコメントをもらい、テレビや新聞の取材もたくさん受け、2023年7月にはなんと絵本『ぼくのいぬはどうしてこんなにかわいいのか』(作・しゅん、絵・えがしらみちこ/KADOKAWA)として出版されました。

絵本を読んだ方からも「自分の犬への愛が溢れていて、同時に作者が好奇心旺盛なのがよくわかる。愛おしくてたまらない絵本」、「しゅん君は、素敵な子だ。本のどこをとっても、チャコとの相思相愛で満ち溢れている。このまま素直ないい子に育ってください。チャコが長生きできますように」といったレビューが多数寄せられています。
愛犬との些細な日常が、幸せや気づきを与えられていた
こうしてすっかり有名になったしゅん君とチャコちゃんですが、当の本人たちの暮らしぶりは全く変わっていません。

「しゅんは絵本ができて喜んでいますし、絵本をチャコによみきかせたりしていますが、あとは特に変わっていませんね。元気に学校に行って野球の練習をしてチャコと遊んで、夜はチャコと一緒にぐっすり眠っています」とのこと。
3年生になったしゅん君は今年の夏休み、自由研究のテーマに大好きな野球を選びました。
チャコちゃんは2022年末に少し体調を崩したものの、今は持ち直して、自力で屋外に排泄に行けるほど元気になりました。お父さんはそんなチャコちゃんとしゅん君の日常を今もSNSに投稿しています。

忙しい毎日の中、投稿を忘れてしまいそうになる日もありますが、あるフォロワーさんのコメントが心の励みになっているそうです。
息子クン、自由研究読ませてもらいました。見ず知らずのおばちゃんを幸せな気持ちにしてくれてありがとう。あなたの素晴らしい自由研究が心ない飼い主や大人の目にとまり、反省できますように」
「本当にたくさんのコメントをいただきましたが、このコメントは特に心に強く残っていますし、スクリーンショットで撮影して時折見返しています。このコメントのおかげで、我が家のささいな日常が人を幸せな気持ちにできるんだということ、そして心ない飼い主さんに何らかの気づきを与えられるんだということに気付くことができました」
以来、お父さんは16歳を迎えたチャコちゃんとの生活を紹介することによって、犬と暮らすことの楽しさだけでなく犬の一生に責任を持つことの大変さを伝えたいと思うようになったといいます。
「毎日の散歩や食事はもちろん、病気になれば病院に連れて行く労力もお金もかかります。チャコのように年を取れば食事や排せつのケアが必要になることもあります。これから犬を飼おうとしている人にも、ぜひチャコと我が家の暮らしを見てもらい、本当にここまで犬の一生に寄り添えるのか、最後まで面倒が見られるのかを自問して欲しい。微力かもしれませんが、我が家の投稿が飼育放棄を抑制し、不幸な犬を減らすことに繋がれば……と願っています」