狂犬病のワクチン接種が必要な理由とは?基礎知識と予防接種を受けるタイミングについて解説【獣医師監修】

狂犬病のワクチン接種が必要な理由とは?基礎知識と予防接種を受けるタイミングについて解説【獣医師監修】

病気・健康

2023年12月01日 更新 (2022年04月20日 公開)

chicoどうぶつ診療所所長。体に優しい治療法や家庭でできるケアを広めるため、往診・カウンセリング専門の動物病院を開設。

狂犬病のワクチン接種が必要な理由とは?基礎知識と予防接種を受けるタイミングについて解説【獣医師監修】

狂犬病ってどんな病気?

狂犬病にかかる哺乳類狂犬病は、「狂犬病ウイルス」によって発症する人獣共通の感染症です。つまり、犬だけではなく猫や人など全ての哺乳類が感染する可能性があります。狂犬病にかかった動物に咬まれたりすると狂犬病ウイルスに感染し、数週間〜数ヶ月程度の潜伏期間を経て発症します。発症後はほぼ100%死に至る恐ろしい病気です。


現在、狂犬病を抑え込んでいる国は日本、スウェーデン、オーストラリア、ニュージーランドなどごくわずかであり、アジア・アフリカ地域を中心に全世界的に発生し、年間約5万人以上が亡くなっています。

犬の狂犬病の症状とは?

攻撃的な犬犬が狂犬病ウイルスに感染すると、約12週間の潜伏期間を経て発症します。発症後の症状は2パターンに分けられます。


狂躁型の狂犬病の症状

狂躁型を発症すると、性格が激変し、興奮・凶暴性を持つようになります。発症後3日から3週間程度の間、通常1週間前後で死に至ります。


沈鬱型(麻痺型)の狂犬病の症状

沈鬱型(麻痺型)の症状は、頭頚部や喉頭部など、頭や首周辺の筋肉に麻痺を生じさせ、脱水や削痩、全身麻痺を起こします。概ね1週間程度で死に至ります。



ともに発症後は、食欲不振や無意味に地面を掘るなどの行動が見られます。他にも、柱や物に咬みつく、狼のような遠吠えをする、徘徊する、攻撃的になり咬みつくなど、症状の出方は多岐にわたります。

また、不安感に襲われたり、水を怖がる怖水症状や、風に当たるとけいれんする恐風症状が見られることもあります。さらに、大量のよだれ、筋肉のマヒ、昏睡、衰弱などの症状があらわれ、最終的に亡くなってしまいます。


狂犬病の感染経路は?

狂犬病ウイルスは唾液中に多く含まれるため、主に罹患(りかん)動物に咬まれることによって感染します。他にも口や目などの粘膜や傷口を舐められたり、唾液のついたツメで引っかかれたりすることでも感染する可能性があります。通常は人から人に感染することはありません。


感染源動物は地域によって異なります。しかし、人が感染する場合の多くは、犬が感染源とされています。


人が狂犬病に感染する場合の主な感染源動物

  • アジア、アフリカ:犬、猫
  • アメリカ、ヨーロッパ:キツネ、アライグマ、スカンク、コウモリ、猫、犬
  • 中南米:犬、コウモリ、猫、マングース

「狂犬病予防法」とは?

「狂犬病予防法」は、狂犬病の蔓延防止と撲滅を目的に、1950年に日本で施行された法律です。犬を飼育する際の登録や予防注射の義務、検疫や狂犬病発生時の対応方法などが定められています。


犬の飼い主は、飼い始めてから30日以内に市区町村の窓口(保健所等)で「犬の登録」を行わなければなりません。また、生後91日を越えた犬には、年に1回、狂犬病予防ワクチンを接種することが義務づけられています。

狂犬病ワクチンとは?

狂犬病ワクチン狂犬病ワクチンには犬に接種するものの他、人が接種するものもあります。


犬の狂犬病ワクチン

法律で義務づけられている狂犬病予防注射は、犬に狂犬病ワクチンを注射することで体内に抗体を作り、狂犬病の感染を予防します。


人の狂犬病ワクチン

その他にも、人が海外に渡航する際に狂犬病を予防するための「暴露前ワクチン」や、狂犬病の可能性がある動物に咬まれた直後に接種し、発症を防ぐ「暴露後ワクチン」などもあります。

狂犬病ワクチンって義務なの?

犬の狂犬病予防ワクチンの接種は飼い主の義務です。狂犬病予防法で接種が定められており、怠った場合は20万円以下の罰金の対象になります。しかし、獣医師が「ワクチン接種が望ましくない」と判断した場合には、その年度の接種を見送ることができます。


日本国内の狂犬病ワクチン接種率は?

日本は1957年を最後に狂犬病の発生がない清浄国です。しかし、アジア全域にわたる近隣国では狂犬病の発生が多く確認されており、油断は禁物です。一般的にワクチン接種率が7080%を超えないと、その病気の大流行が起こる可能性があるとされていますが、国内の狂犬病ワクチン接種率は70%程度、未登録犬を含めると45%程度に止まっていると言われています。大切な犬のためにも、再び国内で狂犬病が発生しないよう予防に努めることが飼い主の義務ではないでしょうか。

狂犬病ワクチンっていつ受ければいいの?

狂犬病予防法において、生後91日以上の犬を、41日~630日の間に受けさせるように定められています。ただし、32日以降、既に狂犬病の予防注射を受けた犬はこの限りではありません。

狂犬病ワクチンの接種方法や費用は?

狂犬病ワクチン接種毎年4月〜6月が狂犬病予防注射月間となっており、各自治体の公園などで集合注射会が開かれます。犬の登録を済ませていれば、注射会の案内ハガキが届く場合があります。詳細はお住まいの自治体のWebサイトをチェックしてください。


費用は自治体によって異なりますが、大体3,000円前後です。例えば東京都では3,200円、大阪市で2,750円、札幌市で2,690円、福岡県で2,650円です。


また、動物病院でも通年接種することができます。別途診察代かかる場合がありますが、期間中に接種し忘れた場合は動物病院で相談しましょう。

狂犬病ワクチンを打たないとどうなるの?

ドッグランを利用する犬現在日本は狂犬病の清浄国であり、感染の可能性はごくわずかです。しかし、狂犬病はすべての哺乳類が感受性動物であるため、「感染リスクがゼロ」とは言い切れず、ワクチンの定期的な接種が必要です。


また、狂犬病ワクチンを接種していない犬が他人に咬みついてしまった場合、2週間の係留経過観察措置の対象となってしまいます。


その他にも、トリミングサロンやドッグラン、ペットホテルなどを利用する際に、狂犬病ワクチン接種の「注射済表」の提出を求められるケースが多々あります。接種していない場合はこれらのサービスを利用することができず、犬と暮らす上でさまざまな制約を受けることになります。


飼い犬が狂犬病になってしまったら?

感染した犬だけでなく、発生地域内の犬に対して係留の命令が出されます。また、必要に応じて、犬の一斉検診や狂犬病予防注射、犬の移動の制限、交通の遮断等の措置が行われることになります。

狂犬病の犬に咬まれたら人や動物はどうすればいい?

人用の狂犬病ワクチン人が狂犬病の疑いがある犬などに咬まれ、狂犬病の感染が疑われる場合には、すぐに流水と石けんで傷口を洗い流し、医療機関で「暴露後ワクチン」の接種を開始してください。狂犬病は、発症する前に診断を確定することができず、発症後の治療方法もありません。しかし、ウイルス感染から発症までの潜伏期間(おおむね13ヶ月、2年以上かかることも)の間に、初回のワクチン接種日を0日目として、3日目、7日目、14日目、30日目、90日目の計6回、暴露後ワクチンを皮下に接種することで発症を予防することができます。


犬が咬まれた場合は、残念ながら暴露後ワクチンなどの対応策はありません。


狂犬病ワクチンの注意点は?

犬の状態によっては、獣医師が狂犬病ワクチン接種の適否を慎重に判断することが重要です。特に、熱や下痢があるときや、他の病気で治療を受けている場合、交配や出産後間もない場合、高齢の場合などは注意が必要です。


また、混合ワクチンと同様に、重篤なアナフィラキシーを引き起こす可能性があります。接種後1530分程度に発生する率が高いため、目を離さずに様子を確認しましょう。不安がある場合は午前中の接種がおすすめです。もし、接種後に体調不良を起こした場合でも、動物病院の午後の診察時間にかけこめるので安心です。