犬の妊娠から出産までに知っておきたいこととは?妊娠期間や症状、注意点について解説【獣医師監修】

犬の妊娠から出産までに知っておきたいこととは?妊娠期間や症状、注意点について解説【獣医師監修】

病気・健康

2022年09月19日 更新 (2021年04月07日 公開)

chicoどうぶつ診療所所長。体に優しい治療法や家庭でできるケアを広めるため、往診・カウンセリング専門の動物病院を開設。

犬の妊娠から出産までに知っておきたいこととは?妊娠期間や症状、注意点について解説【獣医師監修】

犬を妊娠させる前に考えておきたいこととは

【獣医師監修】犬の妊娠から出産までに知っておきたいこととは?妊娠期間や症状、注意点について解説犬の妊娠・出産には、飼い主の助けが不可欠です。「愛犬の可愛い子どもを見てみたい!」という気持ちだけで安易に交配させるのではなく、次のようなことが可能かどうかを事前によく考え、家族とも十分に相談したうえで決めましょう。

 

・妊娠期間中の十分なケア

・妊娠期間中の定期的な通院

・自宅での出産の準備

・難産や母犬が子犬の介助をしない場合の対応

・難産で生じる可能性のある命のリスクを受け入れる

・子犬の世話

・子犬の引き取り先を見つける


交配前には動物病院を受診する

妊娠・出産は犬にとって大きな負担となる行為です。交配させる前に動物病院を受診して健康診断を受け、妊娠・出産に耐えうる体であるかを診てもらいましょう。

 

また、各種ワクチンの接種や、フィラリア、ノミ、ダニといった寄生虫の駆除・予防も妊娠前に済ませておく必要があります。


交配の相手を探す方法

交配相手探しは、メスの飼い主が行うのが一般的。ブリーダーや動物病院に相談したり、雑誌やインターネットの交配情報をチェックしたりして相手を探しましょう。交配相手には、遺伝的な疾患がなく、健康な体と社会性の高い性格をもち、ワクチン接種や寄生虫の予防が済んでいる犬が望ましいとされています。

犬が妊娠するまでの流れとは?

交配させたいときは、メスが発情しているタイミングで相手のオスのところに連れていきましょう。発情のサインは、外陰部の赤い腫れと出血(発情出血)です。発情の期間は12週間ほど続き、その後に排卵が起こります。

 

交配に適しているのは、発情出血の開始後1012日ほどの時期。この期間に最低2回交配させると、妊娠する可能性が高くなります。


着床

受精が成功した場合、交配後3週間ほどで受精卵が着床します。不安定な期間のため、激しい運動をさせることは控えましょう。


つわり

妊娠前期(妊娠13週間)に食欲不振や味覚の変化、稀に嘔吐が見られるなど、人間でいう、つわりの症状が見られることがあります。


妊娠の判定

妊娠したかどうかは、動物病院でのレントゲンや超音波検査(エコー)で判定できます。エコーでの診断は交配から30日後、レントゲンでの診断は45日後に受けられますが、それ以前だと妊娠が確認できない可能性があります。

 

また、妊娠30日以前にレントゲン撮影を行うと、奇形児や流産、死産になる可能性もあるため注意が必要です。

犬の妊娠期間はどれくらい?

【獣医師監修】犬の妊娠から出産までに知っておきたいこととは?妊娠期間や症状、注意点について解説妊娠期間は交配から数えて63日間ほどですが、多少前後し、5866日ほどの犬もいます。妊娠が確定してから、およそ1か月で出産します。

 

初めて発情するのは生後610か月の頃ですが、一度目の発情での妊娠・出産は体が未成熟で危険なため、避けた方が無難です。発情自体は10歳ごろまで起こりますが、犬にとっても高齢出産はリスクが高いため、交配させるのは67歳ごろの中年期までがよいでしょう。

妊娠によって犬に起こる症状とは?

妊娠が成立すると、犬の体調や行動にさまざまな変化があらわれます。妊娠期間別の主な変化と、飼い主がとるべき対応について知っておきましょう。


妊娠前期(13週)

妊娠前期には食欲不振や味覚の変化、嘔吐などの人間でいう「つわり」の症状が起こることがあります。


妊娠中期(46週)

乳腺が発達し、体重が増加して活動が少なくなります。外陰部から半透明の粘液を出すこともあります。


妊娠後期(79週)

乳腺やお腹がパンパンに張った状態になり、胎動を感じられるようになります。母犬が落ち着けるような環境を整え、薄暗く静かな場所に産箱を作ってあげましょう。

犬の妊娠に関する症状への対処はどうすればいいの?

妊娠に関する主な症状としてつわりと営巣行動が見られます。それらの症状の対処方法を以下にご紹介します。


つわりへの対処

前述の通り、犬にもつわりがあります。食欲の減退が特徴的で水分や栄養素が不足しがちになるので、水や栄養価の高いフードを小まめに与えましょう。効率的に水分補給させるには、経口補水液やイオン水などの利用もおすすめです。


営巣行動への対処

床や寝床を引っかく、落ち着きがなくなる、神経質になるなどの「営巣行動」が見られると、出産が近づいているサインです。営巣行動は、出産を控えた母犬にとっては自然な行動です。

犬が妊娠後に行動面の変化はあるの?

【獣医師監修】犬の妊娠から出産までに知っておきたいこととは?妊娠期間や症状、注意点について解説妊娠後に見せる行動の変化には前述のつわりや営巣行動の他に、中期をすぎたときに食欲が増すことで食事の要求が強くなったり、落ち着きがなくなったりすることがあります。また、後期に入ると落ち着きがなくなる場合がありますので、不慮の事故などに十分に注意を払うように心がけましょう。

犬が妊娠したとき、どのタイミングで動物病院に行けばいいの?

前述の通り、犬の妊娠期間は約63日です。交配して初めの30日ほどはいつも通りの生活で構いませんが、それを過ぎたら超音波検査で正常に妊娠しているかどうかを検査することができます。交配したタイミングを起点に動物病院へ連れて行く時期をあらかじめ見越しておきましょう。

犬が妊娠したとき、飼い主ができる準備やサポート

愛犬の妊娠がわかったら、飼い主さんは次のような準備やサポートを行ってください。


食事の内容と与え方を工夫する

妊娠初期はつわりのような症状があることも多いため、消化によくお腹にやさしいフードを少量ずつ、数回に分けて与えます。

 

妊娠後期には食欲が増し、多くの栄養を必要とするようになります。通常の成犬用ではなく、仔犬用のように栄養価が高く、高たんぱくで消化のよいフードを与えましょう。


体温を毎日測定する

出産予定日の10日前ごろから体温の低下がみられるようになります。出産予定日を把握するため、出産が近いと思われる時期になったら毎日体温を測定し、記録するようにしましょう。可能であれば、起床直後と就寝前の12回行うのが理想的です。


穏やかに出産できる場所を作る

愛犬の出産予定日が近づいてきたら、出産するための場所である「産箱」の準備を整えましょう。産箱は掃除しやすい素材でできた、母犬と子犬たちが過ごすのに適切な大きさがあるものを用意します。箱の底には、タオルやシーツ、新聞紙を敷いてください。

 

生まれたての子犬は体温が下がりやすく脱水状態にもなりやすいため、出産スペースは必ず適切な温度・湿度を保ちます。出産に適した温度は29.532℃、湿度は6570%ほど。保温電球や赤外線電球でスペースを温め、水を張ったボウルや加湿器を置いてください。


獣医師の緊急連絡先を用意する

出産は犬にとっても、飼い主にとっても大きなイベントです。妊娠や出産は犬の体調が不安定になることも多いので、緊急時に備えて予定日の数日前からかかりつけの動物病院の獣医師にこまめに連絡や相談をするようにするとよいでしょう。

犬の出産について

【獣医師監修】犬の妊娠から出産までに知っておきたいこととは?妊娠期間や症状、注意点について解説体温が通常より12℃下降すると、24時間以内に陣痛がくると言われています。そのタイミングでかかりつけ医へ連絡しておくと、何かあった時にすぐ対処できるように以下のポイントを押さえておくとよいでしょう。


出産の兆候

出産の予定日から逆算して5日〜7日ほど前から犬の行動や症状を注意深く見守るようにしましょう。前述した営巣行動や落ち着きがなくなってきた場合はもうすぐ出産するというサインかもしれませんので、出産に向けた準備を速やかに行ったほうがよいでしょう。


出産の流れ

体温が下がり始めてから約24時間、体温がもっとも低くなってから約12時間後に出産が始まります。母犬を産箱に連れていき、出産に備えましょう。出産の直前には水が大量に出る「破水」が起こり、その後子犬が生まれます。


出産後の処置やケア

通常の出産では、母犬が自力で胎児のへその尾を噛みちぎり、胎膜を破り、子犬を舐めて刺激して呼吸を促します。しかし、初産のときや母犬の緊張度が高いときなどは、こうした行動をしないこともあります。その場合は、飼い主さんが次のような手順で子犬を介助しましょう。

 

:胎膜を手で引き裂き、子犬を顔から出す

・へその尾の、へそから1cmほどのところを縛り、アルコール消毒や煮沸消毒を行った清潔なハサミで切る。

・子犬を清潔な乾いたタオルで包み、首筋から背中にかけてをこすって刺激する

 

タオルで子犬をこすることで刺激を与え、呼吸を促します。産声をあげるまでには5分ほどかかることもあるため、なかなか呼吸をしなくてもすぐには諦めないでください。


助産について

犬は羊膜という膜に包まれて生まれてきます。多くの場合、母犬が羊膜を破って呼吸を促します。犬は人の目が当たらないところで出産することもありますが、その場合でも穏やかに見守ってあげましょう。子犬の世話ができない母犬がいることもありますので、その場合は飼い主が代わりにサポートしてあげることが必要です。


早産・遅産について

早産は妊娠56日頃に出産することを指します。出産後の対応に誤りがなければそのまますくすくと育つことも可能です。ただ、66日を過ぎても出産しない場合は、遅産となります。この場合、子宮で子犬が大きくなりすぎてしまう場合がありますので、その場合は速やかに動物病院を受診するようにしましょう。

難産の場合にはどう対処すればいいの?

出産のとき、子犬が外陰部に引っかかって出られないこともあります。柔らかいタオルなどで子犬を掴み、ゆっくり、かつ強く引っ張り出すという方法もありますが、無理は禁物です。破水から3時間以上経っても1匹目の子犬が出てこない場合は、動物病院で処置を受けてください。

犬の偽妊娠(想像妊娠)ってどんな症状?

偽妊娠とは、「妊娠をしていないのに妊娠をしているかのような症状が出る」こと。ホルモンのバランスの変化によって起こります。

 

偽妊娠状態になった犬は食欲や元気がなくなるほか、乳腺の張り、乳汁分泌、営巣行動が見られることも。おもちゃを子犬のように世話したり、攻撃的になったりすることもあります。


対処法

乳腺炎などの合併症が起こらなければ、時間が経ってホルモンの状態が落ち着くまで見守ってあげましょう。攻撃性がひどい場合や、乳腺の熱感・疼痛が見られるなど症状がひどい場合は、薬を使った治療なども選択肢に入れるとよいでしょう。


※記事内に掲載されている写真と本文は関係ありません。

 

なお、いつも使っているぬいぐるみを取り除いたり、エリザベスカラーを付けて乳頭を舐められないようにしたりすると、偽妊娠期間を短くできる可能性もあります。