【犬の事件簿】宅配の人が愛犬を連れ去った?!犬を連れ去った人はどんな罪に問われるの?

石井一旭(弁護士)

石井一旭(弁護士)

あさひ法律事務所代表。京都・大阪・奈良・兵庫・滋賀等、近畿一円において、ペットに関する法律相談を受け付けている。「動物の法と政策研究会」「ペット法学会」会員。

【犬の事件簿】宅配の人が愛犬を連れ去った?!犬を連れ去った人はどんな罪に問われるの?
【犬の事件簿】宅配の人が愛犬を連れ去った?!犬を連れ去った人はどんな罪に問われるの?

目次

  • ・ 連れ去りが発生した事案の概要
  • ・ 1 民事上の責任
  • ・ 2 刑事上の責任
  • ・ まとめ

今回は、「犬の連れ去り」をテーマに取り上げます。飼い主がお買い物中、店舗の前にリードを繋いで犬を放置していたため連れ去れさられてしまったというケースのほかに、アメリカでは宅配の人が連れ去ってしまったというケースも発生している様です。発生しない様に予防することが第一ですが、もし発生した場合には連れ去った人をどんな罪に問えるのでしょうか。

※この記事の解説は、ひとつの見解です。お客様の問題の解決を保証するものではありませんのであらかじめご了承ください。

連れ去りが発生した事案の概要

愛犬が何らかの理由で他人に連れ去られてしまったケースを説明します。アメリカでの出来事ですが「ピザの宅配員が、宅配先の家から犬を連れ去る」という事案が発生しています。こうした事例の他、いくつかのパターンを含めて考えてみましょう。

お話を伺ったのは・・・⽯井⼀旭 先⽣ [弁護士/あさひ法律事務所 代表] 

 

事案

中年のご夫妻のところへ犯人の男がピザを届けた際、ペットであるトイプードルがドアから抜け出してしまいました。飼い主である奥さんは、マスクをしていたこともあり、愛犬が出て行ったことをしっかり確認できていませんでした。ピザを受け取った後に愛犬がいないのに気づき、騒ぎとなりました。防犯カメラを確認すると、ピザ宅配員がトイプードルを抱え、ピザの入っていたバッグに犬を入れて隠そうとしている様子がはっきりと写っていたのです。

1 民事上の責任

犬の連れ去り 民事上の責任
ペットは動産であり、飼い主の所有権に属するものです。したがって飼い主に無断でペットを連れ去った場合、飼い主は、ペットに対する所有権をもっていることを理由として、連れ去った者に対し、ペットの返還請求をすることができます。連れ去った側に何か理由があった場合はどうでしょうか。例えば、

・飼主がそのペットを虐待していて可哀想だった
・ペットの方からついてきたのでそのまま連れ帰った

というような場合も考えられますが、結論に変わりはありません。連れ去りによって飼い主に発生した損害、例えばペットの捜索にかかった費用などについては、連れ去った者に対して損害賠償を請求することができます。

2 刑事上の責任

犬の連れ去り 刑事上の責任
いくつかのパターンに分けて考えてみましょう。

他人の庭にいた犬が可愛くて飼い犬にしようと連れ去った

他人の所有物を所有者に無断で自分のものにしようとして持ち去った場合「窃盗罪」が成立します。したがって、庭にいた犬を自分の飼い犬にしようとして連れ去ったという場合には窃盗罪が成立し、10年以下の懲役または50万円以下の罰金となります(刑法235条)。その他、庭に立ち入った行為については、別途住居侵入罪(刑法130条前段)も成立することになるでしょう。

犬が虐待されているようだったから助けようと連れ去った

ペットが虐待されていたから救助したという場合はどうでしょうか。この場合、緊急避難(刑法37条)として免責される可能性もあります。緊急避難とは、「自己又は他人の生命、身体、自由に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為」を指しますが、緊急避難の成立要件は厳格なので、絶対に免責されるわけではありません。

虐待が発見された場合は、「動物の愛護及び管理に関する法律」違反の行為を確認したということで、警察や行政機関に相談するようにし、自分で救助することはしないようにしてください。

犬の連れ去り 犬のトラブル

飼い主から捨てられた犬だと思って連れ帰った

飼い主と一緒にいない犬を、捨てられたペットだと思い、自分のものにしようと連れ帰ったというパターンもありえます。この場合、飼い主の事実上の支配がそのペットに及んでいないとして、「窃盗罪」ではなく「占有離脱物横領罪(254条)」が成立する可能性があります。この場合、1年以下の懲役または10万円以下の罰金もしくは科料の制裁が科せられるにとどまり、窃盗罪に比べて格段に罰則が軽くなります。

ただし、例えばそのペットが首輪をしていたとか、トリミングしたであろう綺麗な毛並みをしていたとか、誰かに飼われている可能性が推測できるような場合は、「窃盗罪」が成立しえます。

また、飼育された猟犬のように飼い主のもとに帰る習性を持つ動物の場合、飼い主から距離的に離れていてもなお、飼い主の事実上の支配が及んでいるものとして「窃盗罪」が成立するとした判例もあります。

明らかな野良犬だったので連れ帰った

野良犬、つまり「誰のペットもでもない犬だと思い」、自分のものにしようと連れ帰った場合、「他人の物を盗もうという意思がないため」犯罪が成立しない可能性があります

もっともこの場合も、首輪をしていたとか、毛並みがきれいだったとか、連れ去った場所が犬のよく散歩している公園だったとかいった事情により、誰かの飼い犬である可能性があると認識しうるような状況だった場合は、犯罪の故意は否定されないでしょう。

迷い犬や猫がやってきたので餌をあげた

これまでの例は、あくまで、「自分のペットにしようとして持ち去った場合」の話でした。たとえば、お腹を空かせた迷い猫や犬がやってきたので自宅に入れてミルクや餌を与えた、というケースはどうでしょうか。この場合は、自分のものにしようとしていないので、犯罪になることはありません。

まとめ

大事なのは、“自分のものにしようとして行われた連れ去り行為”は明らかな犯罪だという事です。もしご自身のペットが連れ去り被害にあった場合、「窃盗」の被害を警察にすぐに相談するようにしてください。


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