2024年01月08日 公開
求人メディア会社の唯一女性だけの部署「プリティ事業部」の責任者。社内コンペにて犬用布おむつを企画し入賞。翌年商品化。柴犬ニコ(4歳)とゴルフをこよなく愛する。
立ったまま簡単に着脱ができる、愛犬の肌に優しい犬用布おむつ『omuwan』とは?
目次
- ズレ、肌荒れ、嫌がる...。犬のおむつ問題を解消する『omuwan』
- 社員の愛犬の悩みから、犬用布おむつの開発を提案
- 日本製にこだわり、古き“良き文化”を継承した犬用布おむつに
- しっぽに触れず着脱が可能な、犬にフィットするおむつを考案
- 約50着以上の試作品…犬のことを一番に考えた布おむつが完成
- 犬が苦手だった福井さんの意識を変えた愛犬・ニコちゃんの存在
- 「良さを知ってから購入してほしい」おむつに異例の試着サービスを導入
- 繰り返し使えるからこそ、愛犬の避難グッズとしても役立つ
- 増える犬のおむつ着用シーン。『omuwan』で思い出作りのお手伝いを
ズレ、肌荒れ、嫌がる...。犬のおむつ問題を解消する『omuwan』
カフェやホテルなど、愛犬との外出時にマナーとして着用を求められることが増えてきた犬用のおむつ。はかせる時にしっぽを触られるのを嫌がったり、かぶれてしまったりと、犬のおむつ問題で悩まされたことのある人は多いのではないでしょうか。
そんな犬と飼い主の悩みを解消してくれるのが『omuwan(おむわん)』です。
人間の赤ちゃんの布おむつと同じ素材を使い、すべての素材をmade in Japanにこだわった『omuwan』は、とにかく肌に優しく、しっぽを触らず立ったまま着脱できます。
開発の責任者は、株式会社大新社の福井千景さん。4年前から犬と暮らしている福井さんも、愛犬のおむつ嫌いに悩まされたといいます。
「快適なおむつで、ワンちゃんと飼い主さんの思い出作りのお手伝いがしたい」
そう話す福井さんに『omuwan』を作るまでの背景やこだわりの理由、おむつ着用マナーへの意識の変化などについて伺いました。
社員の愛犬の悩みから、犬用布おむつの開発を提案
株式会社大新社は、1977年の創業以来、新聞折込求人紙をはじめとする人材総合サービスを通じて、関西圏の採用課題を解決してきました。またメディア事業も手がけており、福井さんは女性向け情報メディア『Pretty Online』を運営する「プリティ事業部」の責任者を務めています。
そんなペット産業とは縁遠い会社が『omuwan』の開発に踏み込んだのは、2021年末に行われた社内コンペがきっかけでした。新規事業立ち上げを目標に、部署対抗で企画案を社長にプレゼンするというものです。
他の部署はそれぞれの事業内容に関わるものを企画するなか、福井さんは「会社がやったことのないことで、自分たちもやってて楽しいこと、大勢の人の役に立つようなことにしよう」と部署のメンバーに提案。
メンバーには、犬を飼っている人が多かったこともあり、自然と犬に関連する課題解決のためのアイデアが飛び交いました。
メンバーが意見を出し合うなかで、とくに注目されたのは「犬のおむつ問題」。そのうちの一つが、ある社員が愛犬の介護をした際に抱えていた悩みでした。
「ちょうどいいサイズのおむつがなくて、人間用の紙おむつにしっぽの穴をあけてガムテープで服 をとめて着けていたそうなんです。暑い時期には服を着せることもできないため紙おむつ一枚で過ごさせるのがすごく悲しかったという話もありました」
同じ頃、福井さんも別のおむつ問題に遭遇します。愛犬ニコちゃんの行きつけのドッグランで、「おむつ着用必須」の貼り紙がされるようになったのです。
「ニコは生まれつき肌が弱く、ふだんから服を着せるならオーガニック系のものを着せるように気を遣っていたので、紙おむつをはかせるのに抵抗がありました。それでも何度か使ったことはありますが、お腹まわりが荒れたり、サイズが合わなくて走りまわると脱げてしまったり、しっぽを触られるのを嫌がって噛みついてきたりするんですよね。結局、おむつが嫌でドッグランには行かなくなってしまいました」
自身の実体験を含め複数のエピソードから、多くの人が犬のおむつ問題で悩んでいるのでは? と福井さんは気づきます。
近年、おむつ着用マナーを求める施設が増えてきていることもあり、福井さんたちは犬が快適に着用できるおむつの開発を提案することにしました。
その後、企画は見事採用。18部門の中から勝ち抜き最終選考に残り、晴れて商品化することになったのです。
「いま会社がおこなっている事業とはまったく別の内容を選んで下さった社長には、感謝ですね」
日本製にこだわり、古き“良き文化”を継承した犬用布おむつに
そうして従来のメディアの仕事と並行し、『omuwan』の開発が始まりました。開発メンバーは、編集者、営業、デザイナー、ライター、そして編集長である福井さん含め9人。製造や販売の経験がないなか、手探りで開発を進めていきました。
はじめに取りかかったのは、おむつを製造してくれるメーカー探し。絶対に外せない条件は、「人間の赤ちゃんの布おむつを作っていること」でした。
「おむつはワンちゃんの肌に直接触れるものなので、うちの子みたいな肌が弱い子でも着用できるよう、少しでも肌に優しいものを作りたかったんです。ワンちゃんは自分の子どもと同じくらい大切な存在です。親心のようなものからでしょうか、家族であるワンちゃんにも赤ちゃんに使っている素材と同じ最高の品質のものを与えたいと思いました」
インターネットで調べると、赤ちゃんの布おむつを製造している企業が福井さんの会社の近くにあることがわかりました。縫製や素材をすべて日本製にこだわり、40年近く赤ちゃんの布おむつを作り続けてきた企業です。
「ここしかない!」
福井さんはさっそく話をしに行き、犬用布おむつの製造を提案。社長の快諾を得て、熟練の赤ちゃんのおむつ製造の技術をもつ企業による協力のもと『omuwan』の開発を行うことが決まったのです。
「一度原点に戻って、昔から日本の“良き文化”といわれてきた、布おむつやものづくりの技術をワンちゃんの分野にも活かしたかったんです。私が子どもを産んだ頃は布おむつも使っていて、肌や環境、財布に優しいだけでなく、人間の赤ちゃんの場合、おむつ離れが早いといわれていました。濡れるたびに洗わなければいけないので面倒なのはわかっているんですけど、そのひと手間に愛情を込めていただきたいなと思いました」
しっぽに触れず着脱が可能な、犬にフィットするおむつを考案
その後、『omuwan』をどのような設計や形状にするか、部署内でアイデアを出し合いました。
しっぽはどのように出すのか。
服とおむつをひとつながりにすべきか。
「好き放題言って、メーカーの方に『そんなの無理だ』と断られることもありました」と福井さん。さまざまなアイデアが出るなか、最終的にまとまったのが「しっぽを触らずに着けられる」形です。
アイデアが決まったのは良いものの一番大変なのは、実際の形にしていくことでした。
おむつのサイズが同じでも、体長、胴回り、太もも周りなど、犬によって大きさは異なります。そんななか、すべての犬がフィットするおむつの寸法を見つけ出さなければなりませんでした。
「『omuwan』は肛門を覆わない造りになっているのですが、個体によってしっぽから肛門までの長さが違うので、サイズの調整が難しかったです。おむつの股や耳の部分が長すぎると犬によっては肛門が隠れてしまうし、短すぎるとベルト部分にくっつけられなくなってしまいます」
データを集めるために、いろんな犬種を採寸して回りました。
おむつの着け心地も、犬にとっては重要な問題。股部分の幅やギャザーの位置が1ミリでも違うと、歩きにくさや漏れにつながります。メーカーから送られてくる試作品に、福井さん自身も手を加えながら改良を重ねていきました。
「従来の編集業務もしながら、デスクで針と糸を持ってずっと縫っていたので、会社で何してるんやろうと他の部署からは思われていたと思います(笑)。家では、試作品を着けて歩くニコの動画を撮って、どうしたら一番歩きやすくなるかをメーカーの方と相談しながら調整していきました。フィットしないと歩かなくなってしまうし、おやつで釣りながら歩かせるのに必死でしたよ(笑)」
約50着以上の試作品…犬のことを一番に考えた布おむつが完成
試作品を試着させては、ミリ単位の修正をメーカーに依頼し、またできたものを試着させ、修正を依頼して……の繰り返し。
「細かい修正を何度もお願いしたので、めちゃくちゃ嫌がられたと思います」と苦笑いする福井さん。最終的な試作品の数は約50着にも及んだそうです。
2023年5月。構想から約1年以上、度重なる改善を重ねて『omuwan』は完成しました。素材はすべてmade in Japan。犬のことを一番に考え、こだわり抜いた商品になりました。
タグも縫い付けずに、布に直接印刷しています。
「犬への肌の負担と地球環境のことを考えて、余計なものをつけないようにしました」
「外国製のものも安くていいのですが、私たちが目指すのはそこではありません。値段が高くなっても、とにかく良質なものを作りたかったんです。『omuwan』という名前も、『おむつNo.1』と『おむつとワンコ』という意味をかけてつけました」
犬が苦手だった福井さんの意識を変えた愛犬・ニコちゃんの存在
犬に対してはかり知れない愛情を持つ福井さん。しかし、愛犬ニコちゃんを迎え入れるまでは、犬は苦手だったといいます。
「噛まれるのが怖くて飼うなんて絶対無理だと思っていました。仕事をしながら散歩もしないといけないし、出かけるときも困るし...。息子が小さい頃はよく飼ってと言われていたのですが、毎回却下していました」
しかし息子さんが成人した後、豆柴を飼いたいという旦那さんの願いをしぶしぶ受け入れ、犬を飼うことになったそうです。2019年のことでした。
「ブリーダーさんから引き取る際に、お母さんワンちゃんに会わせてもらったのですが、その瞬間何もかも変わりました。お母さんから譲り受けた子どもを、私たちが大事にしないと。ちゃんと育てるから、お母さん安心してねと思いながらニコを連れて帰りました」
その後の福井さんの生活はニコちゃん中心にがらりと変わります。休日はキャンプや旅行、ワンちゃんと同伴可能なところなどに出かけ、ニコちゃん用のお菓子やケーキ作りもするようになりました。
また、ニコちゃんは生まれつき肌が弱かったこともあり、食べ物にはとくにこだわっていたそう。オーガニックや無添加のものに変えていくうちに、パピー期はなかなか毛が生えず真っ赤だったお腹も徐々に改善していきました。
「ワンちゃんは人間と違って、痛い、しんどいということを話せないから、私たちがいち早く察してあげないといけないじゃないですか。食べるもの、身につけるもので大事に至るのを未然に防げるなら、少しでもワンちゃんに優しいものを使ってあげたいです」
愛犬をきっかけに芽生えた犬への愛情。その愛がたっぷり注がれた『omuwan』をはき、ニコちゃんはドッグランで嬉しそうに走り回るようになりました。
「良さを知ってから購入してほしい」おむつに異例の試着サービスを導入
『omuwan』は衛生商品には珍しい、試着サービスも実施。ドッグイベントへの出店時に無料の試着会を開催し、現地に来られない飼い主向けに公式通販サイトでは試着サービスの販売を行っています。
「6000〜7000円と安くはない商品を、ワンちゃんに合うかわからない状態で買ってもらうのは申し訳ないじゃないですか。なので基本的には、試着してもらってから購入していただきたいと思っています。多くの人に買ってもらうよりは、良さをわかっていただける方に使っていただきたいので、いろんなイベントに出店して、一歩ずつ大切に進んでいこうと思っています」
通販サイトの試着サービスは常に「再入荷待ち」になるほどの人気ぶり。イベントでの試着会では、50〜60代の飼い主が「布おむつ懐かしい」と嬉しそうに買ってくれることが多いそうです。また、実際に使用した飼い主からは「ここまでこだわっている物はなかった」「病院での粗相予防に活躍しています」「外出先でささっと着用できておしゃれ」という声が続出しています。
販売当初はMサイズのみの販売でしたが、2023年11月からは応援購入サイト『Makuake』でSサイズ、Lサイズも販売開始。また、「パピー期から最後の看取る瞬間まで心地よく過ごしてほしい」と、今後は犬用の介護商品の開発にも挑戦したいといいます。
「医療の発達によって人間と同じようにワンちゃんも高齢化が進んでいますが、人間に比べてワンちゃんへの介護のサービスや商品は少ないです。ワンちゃんも家族の一員。最後まで快適に過ごせるようにお世話をするのが当然です。みなさんの『こうなったらいいなあ』という想いを具現化できるように、またワンちゃんも飼い主さんも最後までハッピーに過ごせる世界をぜひ一緒に作っていけたらいいなと思っています」
繰り返し使えるからこそ、愛犬の避難グッズとしても役立つ
『omuwan』の開発を通じ、福井さん自身、犬のおむつ着用マナーに対する考え方が変わったといいます。
「紙おむつを使っていた時はニコが嫌がるので抵抗があったのですが、『omuwan』を作って、おむつをちゃんと着けなければいけないという意識が強まりました。いくらしつけていたとしても、動物なので当然粗相はしてしまいます。それでワンちゃんを叱るのも理不尽だし、仮におしっこをしなくてもワンちゃんを飼っていない方が不快に思われるかもしれません」
福井さんは、『omuwan』を防災リュックに入れておくことも推奨しています。
「もし避難するとなったら、トイレにいつ行けるかもわかりません。ペットシーツも必要になるでしょう。でも何日間分要るかなんて想像つきませんよね。そんな時のために、防災リュックにポンとこれを一つ入れておけば安心だと思うんです。お守りがわりにでも」
洗って繰り返し使える布おむつだからこそ、災害時でも役立つと考えています。
「犬におむつをつけておくことで、周りにも配慮できますし、飼い主さんも避難所で肩身の狭い思いをしないといいなって思っています」
増える犬のおむつ着用シーン。『omuwan』で思い出作りのお手伝いを
近年、カフェやホテル、商業施設など犬の同伴が可能な施設が増えてきています。それと同時におむつ着用を求めるところも多く見られるようになってきました。
「どんな場所でもワンちゃんが少しでも気持ちよくお出かけできるようになればいいなと思っています。おでかけは、ワンちゃんにとっても飼い主にとってもかけがえのない思い出になります。『omuwan』でそんな思い出作りのお手伝いができれば、これほど幸せなことはありません」
犬の快適さを一番に考え、とことんこだわって作られた『omuwan』。
手洗いという、ひと手間必要な布おむつが人気を呼んでいるのは、そんな苦労もいとわないほど、多くの飼い主が愛犬に愛を注いでいるからでしょう。『omuwan』を着けておでかけを楽しむ犬が増え、犬と飼い主、そして犬を飼っていない人もより心地良く過ごせる社会に変わっていくことを願っています。