2023年10月25日 公開

16歳のシニア犬のチワワと暮らすウチュさん
専業主婦のウチュさんは、SNSで日常のちょっとしたトピックを漫画にして投稿しています。

漫画の中には、愛犬・ニーニーちゃんもよく登場します。最近では、今年で16歳を迎えたニーニーちゃんのために、ホームセンターで買える材料だけで、ウチュさん夫婦が「白杖」を手作りしたことが話題となりました。
ニーニーちゃんのくらしをサポートするために工夫していること、16年という年月を共に重ねてきたウチュさんとニーニーちゃんのこれまでの歩み、老いていく愛犬への想いを聞いてみました。
視力の衰えた愛犬が怪我をしないように、犬用の白杖を自作
現在、ニーニーちゃんは白内障を持ち目の手術を経験したため、周りがよく見えていません。さらに徘徊が進んでいることから、壁や机の脚にぶつかってしまうことも多くなりました。

ウチュさん宅では、壁の角にクッション材を貼る、柱をタオルでぐるぐる巻きにするなど、いろいろな工夫を凝らしていましたが、心配は絶えません。
チワワは目が前に出ているため他の犬種よりも目をぶつけやすく、ニーニーちゃんが手術経験のある目をぶつけてしまわないかとヒヤリとする瞬間が多々あったそうです。
そこで、ウチュさん夫婦が思いついたのが手作りの白杖をニーニーちゃんにプレゼントしてあげることでした。
「最初はエリザベスカラーをつけていたのですが、ニーニーが床の匂いを嗅ごうとすると喉につっかえていてかわいそうだなあと思いました。咳き込んだり、エリザベスカラーが引っかかってしまい、思う方向に進めなかったりで、本人からもイライラしているのが伝わってきましたね。その時にふと、昔ネットで見た犬用の白杖のことを思い出したんです」

「はじめは市販の白杖を購入しようと思ったのですが、犬用のオーダーメイドになるとなかなかのお値段で……。そこから老犬の飼い主さんのブログやYoutubeを見てみたところ、意外と自作している人がたくさんいたので、私も自分で作ってみることにしました」
『せっかくならアイデアを出しながら楽しく作りたい!』と思ったウチュさんは、旦那さんも誘ってホームセンターへ材料選びに出かけました。
手作り白杖に使った材料は
- 園芸用のワイヤー
- 細いホース(50cm)
- ハーネス
- テープ の4つだけです。

園芸用のワイヤーを適切な長さにカットし、ホースの穴に通します。ワイヤーの端を「ひ」の形に折り曲げ、ワイヤーとハーネスをテープでぐるぐる巻きに固定したら完成です。

できたニーニーちゃん専用の白杖は、フラフープのような輪っかを首につけて使用します。

エリザベスカラーと違い、喉の前にはスペースが確保されており、壁にぶつかりそうになったときは、ボヨ〜ンとニーニーちゃんの体を軽く跳ね返してくれます。このバンパー機能により、ある程度は壁に衝突することは防げるようになりました。
ウチュさんいわく「あくまで老犬のチワワ用であるため、強い作りではない。どの犬種にも対応できるとは言い切れない」とのこと。
最初は丈夫な園芸用のワイヤーを使おうと思っていたそうですが、細いワイヤーだけでは、ニーニーちゃんが怪我してしまうリスクがあると考え、旦那さんはホースがいいのではないかとアイデアを出してくれました。でも、ホースでは太くてハーネスに固定するのは難しい。そこで、思いついたのがホースの穴にワイヤーを入れるという、二刀流のアイデアだったのです。
「1人では思いつかないアイデアだったので、夫の協力に助けられました!」
愛犬との初めての老犬介護生活。物や情報を頼り、試行錯誤
もともと実家でくらしていたニーニーちゃんは、ウチュさんの結婚後からウチュさん夫婦のもとで暮らすようになりました。

最近は、白杖以外にも水を通さないペット用のおねしょシーツを用意したり、ニーニーちゃんがぐるぐる徘徊し始めたときは子ども用のビニールプールの中に入れて壁にぶつからないようにしたり、家の中にはニーニーちゃんの老後生活に対応した愛のある対策に溢れています。
日向ぼっこするが大好きなニーニーちゃんのために、部屋とベランダとの間の大きな段差部分にも自作の犬用階段を設置しました。ニーニーちゃんが自力でベランダを出入りできるようになっています。

「自分ひとりですべてを解決するのは大変なので、ある程度モノに頼るようにしています。私自身も犬の介護は初めてのことなので、他の飼い主さんの情報を見たり聞いたりしながら、いろいろ試行錯誤している最中ですね」
高校生の時に迎えた、怖がりでクールな性格の愛犬・ニーニー
ウチュさんが高校2年生の頃、お母さんと一緒に小さくて目が特徴的なスムースチワワのブログにハマっていました。
「ある飼い主さんのブログを見てこんなにかわいい犬がいるんだ! と衝撃を受けました。丸顔で鼻が短くて、なんだか宇宙人みたいな見た目に惹かれたんだと思います。面長で鼻がシュッとした犬も好きなんですけど、私も母も丸顔なので、似たものを感じたのかもしれませんね(笑)」
そして、ブログで見たような柄の子に出会うべく、池袋のブリーダーさんに相談したところ、茶色いまゆ毛をしたチワワの写真が送られてきました。
それがいまのニーニーちゃんです。

「写真を見て一瞬で『この子だ!』と思い、迷わず迎えに行きました。とにかく小さくて、両手におさまるモルモットくらいの大きさでした。いま昔の写真を見返しても、衝撃的なかわいさだなって思います(笑)」

当時、受験生だったウチュさんが家で勉強していると、足の周りをちょこちょこ歩き回っていたそう。犬見知りな子ではありますが、バッグの中や自転車のカゴに入って外に出かけるのが大好きでした。

「自転車で角を曲がるときは、反対側に体を傾けるんです。結構上手に乗りこなしていましたね(笑)体が小さいので大きな道路を歩くのは怖がるのですが、高いところから見下ろして移動するのは好きみたいです」

ウチュさんいわく、ニーニーちゃんは昔からクールな性格だそう。大はしゃぎすることもなく、おもちゃを投げても『なんで取りに行かなきゃいけないの』って顔をするのだとか。
「ニーニーを犬らしくはしゃがせるのは、至難の技。そのため、私のなかでは、彼女は少しぶっきらぼうな口調で再生されています(笑)」
人見知りの愛犬を手懐けた「すごいやつ」が人生のパートナーに
これまでニーニーちゃんと過ごしてきて、ウチュさんが特に印象に残っている出来事は「結婚相手を教えてくれたこと」
ウチュさんが大学生の頃、ニーニーちゃんを大学のキャンパスに連れて行ったことがありました。ひとしきり庭を散歩をしてから、所属している研究室に挨拶に行ったところ、珍しく同期の男性の膝の上に乗り、ニーニーちゃんがまったりとくつろぎはじめたのです。
そう、のちのウチュさんの旦那さんです。
「ニーニーはわりと警戒心のある子なので、ひょいひょいと誰の膝でも乗るような子ではありません。それなのに、夫の接し方が上手だったのか、なぜか懐いていたんです。『この人、もしかしたらすごいやつなんじゃない?』って(笑)一目置くようになりました。いまとなっては、ニーニーが私の結婚相手を見極めてくれたのかなと思っています」
犬を飼った経験はなかった旦那さんですが、いまでもニーニーちゃんと大の仲良し。いつも同じ布団で寝ています。
「私は小さい頃からニーニーが家にいたからかわいがるのは当たり前かもしれませんが、夫がニーニーと一緒にくらし始めたのは8歳という、もうシニア入りしていた年齢です。それなのに、ニーニーのことを快く受け入れてくれた夫にはとても感謝しています。さすが、あのニーニーが認める相手でしたね(笑)」

「愛犬のため」の選択が、自分の心と身体を守ってくれた
今は、専業主婦として、趣味で漫画を描いているウチュさん。5年前までは、会社に勤めていました。
結婚した時期に引っ越しをしたり、職場の部署が変わったりと、何かとウチュさん自身に大きな変化が重なってやってきました。さらに、ウチュさんのお母さんが亡くなり、ニーニーちゃんの面倒をみるバトンが、完全にウチュさんに手渡されたことで生活は一変します。
「夫とくらし始めて、職場まで片道電車で1時間半くらいかかるようになってしまいました。すると、ニーニーを1日12時間くらいお留守番させることになってしまって......。そんな生活は、私の中では考えられないことでした」

当時、ニーニーちゃんは11歳。年齢としてはシニアに差し掛かり、乳腺腫瘍の摘出手術を済ませるなど、少しずつ体調の変化が見られた頃です。他にもいくつか要因があり、旦那さんにも相談し、仕事を辞める決意をしました。

2020年、そんな当時のウチュさんの心境とこれまでのイラストをまとめた作品集、『ニーニー日記1』を出版しました。

すると、ウチュさんの元に同世代の女性たちからファンレターが届いたのです。その中には、『大変なことが重なるなかでも、大切な存在や自分のくらしを守ろうとするウチュさんに勇気をもらいました。私もがんばります』というメッセージが書かれていました。

「ファンレターを読んだときにはグッとくるものがあり、いまでも大切に保管しています。当時は、ニーニーのために会社を辞めたと思っていたのですが、もしあのまま仕事をつづけていたら、どこかで心身を崩していたかもしれません。そう思うと『ニーニーのため』と思っていたことが、巡り巡って『自分のため』になっていたのかもしれないなと、今となっては感じています」
老犬もかわいい? 成長する愛犬との時間を全力で楽しむ
いつもニーニーちゃんと時間を共にし、体調や様子をよく観察するウチュさんの毎日。

「こんなに小さい体で16年と半年も一緒にいてくれたんです。もう十分感謝しています。今までのニーニーだったらしなかった粗相や徘徊も増えました。一方でおいしそうにご飯を食べるなどの、これまでと変わらないニーニーの姿を見つけられると嬉しくなります」
これからも一緒にいられる日常に感謝しながら、ニーニーちゃんが1日でも長くご飯をおいしく食べられる日々がつづくよう、サポートするのみ。
犬の存在は「現代社会では難しいことを簡単にしてくれる感じがする」というウチュさん。
すれ違った知らない人とちょっと話す、スマホを見ずに歩く、空を見てぼーっと座るとか、普段は気づけない日常のありがたみに気づけます。

かつてはお母さんが一番ニーニーちゃんのお世話をしてくれていたこともあり、「最近になってやっと飼い主として一人前になれたのかもしれない」と感じているそう。
ニーニーちゃんを迎えた頃のウチュさんは、ニーニーちゃんが老犬になる姿なんてまったく想像したことがありませんでした。
「私は人に『老犬の介護は大変だから覚悟しておいたほうがいい』なんて偉そうなアドバイスはできません。私だって、もしそれを聞いていたら、もしかしたらニーニーを迎えるのを辞めていたかもしれないからです。でもニーニーを迎えなければよかったなんて思うはずもなくて。だから、16年ニーニーと過ごした私が言えるのは、それぞれの年齢のその子との時間を全力で楽しんでほしい、ということだけです」

「歳をとると、体調を崩しやすくなるし、手を焼くことも増えます。でもそれもずっと見てきた愛犬だからかわいく思えるんです。なので、これから犬を迎える人には、子犬時代、成犬時代、老犬時代と、それぞれの時代を全力で楽しんでほしいです」
人間にも犬にもそれぞれ個性があるように、飼い主と飼い犬の関係性も、それぞれの形があって当たり前。「老犬だから」と引きこもらず、今後もいろんなところに一緒にお出かけする予定だというウチュさん夫婦とニーニーちゃんは、これからも3人らしく、穏やかで優しい日々を送っていくことでしょう。
