犬を飼っていると心配なのが、誤飲や誤食。家の中でも屋外でも、犬はいろいろなものを口に入れてしまいます。思いもよらないものを飲み込んでしまったことで、犬の身体に重篤な症状をもたらすことも。今回は獣医師の石村拓也先生に教えていただいた、犬の誤飲・誤食の対処法や、予防するためにできることなどを解説していきます。
犬が誤飲・誤食しやすい物は?
犬が誤飲しやすいものといえば、やはり多いのは食べ物です。たとえば、人間が食べたごはんの残りをゴミ箱からあさったり、食事中に落としたものを食べてしまったり、テーブルの上においておいたものを食べてしまったりというケースはよくあります。
また、おもちゃのゴムボールで遊んでいて、それを飲み込んでしまうという例もあります。小さい物は誤飲しやすいので、おもちゃを選ぶ時には大きさにも配慮する必要があります。
誤飲・誤食をしやすいのはどんな犬?
一般的に、好奇心旺盛な性格の犬や、ミニチュア・ダックスフンドやビーグル、ラブラドール・レトリーバーといった、もともと狩猟犬であった品種の犬は、いろいろなものを口に入れてしまいやすい傾向があります。また、口が大きい犬も誤飲しやすいので、注意が必要です。
犬が誤飲・誤食するとどんな症状が出る?
小さなボタンなどを食べてしまった場合は、特に症状が出ず、うんちとして排泄されることもあります。トラブルが起きる場合は、何を食べてしまったかによって犬の身体に出る症状は様々ですが、よく症状として見られるのは嘔吐などです。急な体調不良、特に突然嘔吐を繰り返し、元気がない場合などは誤飲の可能性を疑いましょう。
犬が誤飲・誤食してしまうと特に危険な物は?
誤飲・誤食してしまうと、特に危険なものを挙げます。
物理的に危険なもの
- ・竹串やようじなど尖ったもの
- ・ひも状の異物
- ・ゴムボール
- ・ぬいぐるみ
- ・おもち
形状としては、尖ったものやひも状のものは要注意です。焼き鳥などを丸ごと食べてしまうと、竹串が突き刺さるので危険です。ひも状の場合は、腸にからまって壊死(えし)を起こしたり、腸閉塞を引き起こしたりすることがあります。このようなケースでは、盛んに嘔吐を繰り返し、ぐったりとしてしまい、最悪の場合には命を落としかねません。
遊んでいて小さなボールを飲み込んでしまうこともよくありますが、特にゴムボールは、胃酸の作用により、お腹の中でカチカチに固くなってしまいます。
ぬいぐるみの綿やおもちなどは、喉につまりやすいので、窒息の危険があります。
成分が危険なもの
チョコレートや玉ねぎなどは、犬にとっては有害な食材なので、少量であっても食べさせてはいけません。人間用のキシリトールガムや薬なども危険です。また、観葉植物なども花や葉が毒性を持つ場合があるので、室内に置いている場合は注意しましょう。
危険度の高い誤飲・誤食「要注意リスト」
特に気をつけたいのは、以下にご紹介する5つ。いずれも愛犬を近づけないようにする、愛犬がうっかり口にしてしまうことがないよう片付ける、捨て方を工夫するなどの対策を心がけましょう。
農薬・殺虫剤・殺鼠剤(さっそざい)
農薬や殺虫剤は、犬にとって中毒性のある物質を含んでいたり、多量に摂取してしまうと中毒症状を引き起こしたりする場合があります。
農薬や殺虫剤の種類によって含まれている成分が違うため、起こりえる中毒症状も、下痢や嘔吐などの胃腸障害から、ふらつき、けいれん、意識レベルの低下などさまざまです。
また、殺鼠剤にはワルファリンという成分が使われていることが多く、これを摂取してしまうと犬ではワルファリン中毒が起きます。
ワルファリン中毒は、血が固まりにくくなってさまざまな部位から出血が起こり、対処が遅れると死んでしまうこともあるとても怖い中毒です。
ボタン電池
ボタン電池は、飲み込むと大変危険です。同じ場所にとどまると粘膜が腐食し、胃や腸など内臓に穴をあけてしまうことも。愛犬が電池を飲み込んでしまったら、できるだけはやく動物病院に行ってレントゲンを撮り、飲み込んだ電池がどこにあるかを確認して取り出す処置が必要です。
乾燥剤
乾燥剤にはいくつか種類がありますが、なかでも海苔などの食品の包装によく入っている、生石灰(酸化カルシウム)を使用した吸湿力の高い乾燥剤は、水にぬらすと発熱します。そのため、犬が飲み込むと、口の中から食道、胃に至るまでがただれ、びらんや出血を引き起こし、強い痛みを伴います。
万が一飲み込んだ場合は、すみやかに動物病院を受診しましょう。
保冷剤
保冷剤の成分であるエチレングリコールは、甘い味がします。そのため、犬がかじって穴をあけると、そのまま食べてしまうおそれが。この物質には強い中毒性があるため、摂取した場合、時間とともに嘔吐や意識障害を引き起こすほか、最悪の場合は腎不全を起こして死に至る危険があります。
エチレングリコール中毒は時間との勝負になるため、もし愛犬がエチレングリコールを含んだ保冷剤を誤食してしまったら、早急に動物病院を受診して治療を行いましょう。
人が服用する薬
犬がカゼ薬、睡眠薬、血圧を抑える薬などを誤飲した場合は、迅速な処置が必要となります。飼い主さんの手から落ちたものを反射的に食べてしまう犬も多いので、服用時には周囲に愛犬がいないかなど十分に注意してください。
犬が誤飲・誤食した時にはどう対処する?
誤飲や誤食に気づいたら、すぐに病院に連れていくのが基本です。誤飲してしまったものによっては催吐処置を行いますが、催吐剤で吐かせることができるのは、誤飲してから数時間のみです。その後、誤飲したものが腸に進み、どのような悪影響を及ぼしてしまうかはわかりません。症状が出てからでは遅いことが多いので、まず病院に連れて行きましょう。
なお、竹串や針、ガラスや化学物質など催吐処置を行うことによって病状を悪化させてしまうものもあり、何を誤飲したがが重要になります、そのため、何を食べたのか、どのくらいの量を食べたのかを把握しておきましょう。もし食べた残骸や切れ端が残っていたら、それも持参するようにしてください。病院で吐き出させたものと照合して、すべて出し切ったのか、まだ残っているかを判断する材料になります。
犬が誤飲・誤食した時にやってはいけないことは?
自己流の方法で無理に吐き出させようとすると、かえって危険なので、必ず獣医師に相談するようにしましょう。インターネットなどでは「食塩水を飲ませて吐かせると良い」といった情報が載っていたりすることもありますが、これは大変危険です。塩分中毒を起こして死に至ることもあるので、絶対にやめてください。
犬の誤飲・誤食を予防するためにできることは?
室内での予防策としては、犬の口に入る大きさのものを手の届くところに置かないようにすることです。特に危険な物は、蓋や扉が閉められるところなどに保管するようにしましょう。
屋外では食べ物の拾い食いが多いため、散歩の際にはしっかりリードを引き、注意しましょう。何でも口に入れてしまう犬に対しては、しつけ教室などでトレーニングを行うのも有効です。
誤飲・誤食後3日間はしっかり経過観察を
繰り返しになりますが、犬が誤飲・誤食をしてしまったときは、すみやかに動物病院を受診、もしくは相談することが大切です。
ただし、食べてしまったものによっては、獣医師の判断で経過観察になることもあります。
- すぐに体に影響しない
- 吐かせるほうが危険である
- 全身麻酔をかけて行う開腹手術は犬への負担が大きい
上記のような理由から、排せつを待ったほうが安全なケースもあるためです。
誤飲・誤食から3日経っても嘔吐や下痢などの異常がなければ、自然と排せつされる可能性が高くなります。
経過観察になったら、自宅で安静にして過ごし、愛犬の様子をよく観察しましょう。
その場合も、必ず獣医師の判断に従うようにしてください。
第2稿:2021年2月9日更新
初稿:2020年2月28日公開
※記事内に掲載されている写真と本文は関係ありません。
専門家のコメント
犬が誤飲・誤食してしまった場合は、何をどのくらい口に入れてしまったのか、落ちついて状況を把握することが大切です。また、無理に吐かせようとしたりせずに、すぐに病院に連れていくようにしましょう。
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監修/石村拓也先生(獣医師)
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