犬の肝臓病とは?原因や症状、病院に行くべきタイミングと予防法について解説【獣医師監修】

林美彩(獣医師)

林美彩(獣医師)

chicoどうぶつ診療所所長。体に優しい治療法や家庭でできるケアを広めるため、往診・カウンセリング専門の動物病院を開設。

犬の肝臓病とは?原因や症状、病院に行くべきタイミングと予防法について解説【獣医師監修】
犬の肝臓病とは?原因や症状、病院に行くべきタイミングと予防法について解説【獣医師監修】

目次

  • ・ 犬の肝臓のはたらきとは?
  • ・ 犬の肝臓病とは?
  • ・ 犬の肝臓病の種類
  • ・ 犬の肝臓病の症状とは?
  • ・ 犬の肝臓病の原因と予防について
  • ・ 犬の肝臓病の治療はどのように行うの?
  • ・ 肝臓病になった犬に注意すべきこと
  • ・ 犬の肝臓病はどのように予防すればいい?

肝臓病とは、なんらかの原因によって肝臓の機能が低下して障害があらわれる病気ですが、大切な愛犬が肝臓病にかかることもあります。肝臓は、人間にとっても犬にとっても、生命を維持するためのさまざまな役割を担う大切な臓器です。ところが、肝臓は病に侵されても初期症状が現れにくいことで知られており、「沈黙の臓器」と言われています。飼い主が心がけたい愛犬の肝臓病の予防法や、早期発見のポイントなどについて、chicoどうぶつ診療所の所長である林美彩先生に解説していただきました。

犬の肝臓のはたらきとは?

liverdisease_01_p01肝臓は身体の臓器の中でもひときわ多くの機能があると言われています。そのため肝臓疾患にかかりその機能が衰えてしまうと、犬の健康にさまざまな悪影響を及ぼします。


栄養素の代謝

肝臓のもっとも大きな役割は栄養素の分解、合成、貯蔵です。犬が食べたものは、腸で吸収されたのち、血液を通していったん肝臓に送られます。肝臓では、エネルギーを作り出し、犬の身体に必要な物質を合成します。また、余分な栄養素は、必要な時に備えてグリコーゲン(エネルギー代謝に必要な物質)として貯蔵されます。


胆汁の生成と分泌

食べた栄養素をエネルギーにするためには、消化酵素が必要です。脂肪の分解吸収を促進するために必要な消化酵素である胆汁は、肝臓で生成・分泌されています。


毒性のある物質の解毒

肝臓の大きな役割の一つに、体内毒素の解毒があります。身体を流れる血液は、心臓に行く前に肝臓を通り、身体に有害な毒素を解毒します。たとえば、健康な身体に必要不可欠なタンパク質が身体に吸収されるための過程で、アンモニアという有害物質が作られてしまいます。肝臓は、このアンモニアを尿素に変えて尿中に排泄させる働きを担っています。


身体の化学工場

肝臓という臓器は、上記のほかにも、出血時に血液を固めて止血する血液凝固因子の生成や、外から侵入してくる細菌やウイルス、体内で変異したがん細胞から身体を守り、古くなった細胞などを処理する生体防御機能も担っています。肝臓は「身体の化学工場」と言われ、「肝心要(かなめ)」という言葉があるように、肝臓が元気であることは、身体にとってとても大切なことなのです。


老犬は肝機能の低下に注意

加齢とともに肝臓に疲労や疲弊が生じて、上記の機能が働きにくくなります。身体に不調が生じることも多くなりますが、初期段階で対応をすれば軽症で済むことが多いです。

犬の肝臓病とは?

肝臓に炎症が起きたり、細胞に脂肪がたまりすぎたりするなどして、本来の肝臓のはたらきができなくなることを肝臓病といいます。ただ、肝臓病の症状が現れるのはかなり進行した状態になってからです。そのため、早期発見が難しい病気といえます。

 

肝臓病になると、栄養障害や解毒機能の低下などにより体のいたる所に障害が起こります。症状が進むと毒素が脳に影響し、肝性脳症などの病気になってしまいます。肝臓病は初期であれば無症状のこともありますが、食欲がなくなる、体重が落ちる、元気がなくなる、白目や歯グキが黄色になる(黄疸)などの症状があります。

犬の肝臓病の種類

liverdisease_01_p02犬の肝臓病といってもさまざまな種類があります。人と共通する点が多いので、イメージがつきやすいものもあるかと思いますが、一つずつ症状を紹介します。


肝炎、慢性肝炎

肝臓が炎症を起こした状態のことを肝炎と言います。慢性肝炎は炎症が長期間持続している状態です。慢性肝炎のほとんどは、原因が特定できないため、「特発性(とくはつせい)」と呼ばれます。


肝硬変

肝硬変は慢性的な肝臓の炎症によって組織が線維化して、肝臓が硬く変質してしまった状態のことです。こうなると肝臓は本来の役割を果たせなくなってしまいます。


肝臓腫瘍

肝臓がんのことをいいます。多くの場合、原因が特定できないことが多いです。


銅蓄積性肝臓病

肝臓における銅の排泄機能が悪くなり、銅が蓄積しやすくなる病気です。


門脈体循環シャント

アンモニアなどの身体の害になる毒素は、通常腸管から吸収されて門脈と呼ばれる血管を通って肝臓に運ばれ無毒化されます。この門脈と全身の静脈の間をつなぐ余分な血管(シャント)が存在することにより、毒素が全身を回ってしまい、さまざまな症状が引き起こされる病気です。

犬の肝臓病の症状とは?

肝臓病にかかった犬は、身体の代謝や毒素を分解する力が落ちるため、疲れやすくなり、元気がなくなります。食欲がなくなったり、下痢・軟便が続いたりすることもあります。

 

小腸からの出血により真っ黒な便(メレナ)などが見られ、重症になると解毒が働きにくくなることから脳に悪影響を及ぼす肝性脳症を引き起こし、意識障害・昏睡状態に陥ってしまうこともあります。また、黄疸や腹水、血液凝固異常などが見られることもあります。前述しましたが、一般的に肝臓は重症化しないと特徴的症状が現れず、かなりのダメージを受けてから症状を表す場合が多いです。ただし、排泄物の変化や皮膚や白目が黄色く見える黄疸や、尿の色がオレンジ色に見えるほど濃い色になることがサインになることもあります。

犬の肝臓病の原因と予防について

体質的、遺伝的な要因もあるため、肝臓病の原因を特定することは難しいですが、食事のバランスに気をつけて、適度な運動とストレスのない生活をさせることが、総合的に予防になります。このあたりは、人間と同じですね。


栄養バランスの偏り

添加物が多く含まれる食事や、栄養バランスが偏ったものなどを長期的に食べていることで、肝臓に負担がかかり、肝臓病になりやすくなります。タンパク質や脂質の摂りすぎに注意です。消化の良い良質なタンパク質、亜鉛、ビタミン、などを適正量食べさせるといいと言われています。分岐差アミノ酸やマリアアザミなどのハーブ、プラセンタなどのサプリメントを併用するのもおすすめです。


肝臓の腫瘍によるもの

肝臓の腫瘍(がん)によって引き起こされるものもあります。前述した肝臓腫瘍がこれにあたります。


肥満

栄養過多による肥満は、代謝を担う肝臓に負担がかかります。適切な食事を心がけることが予防につながります。


ウイルス、細菌、寄生虫などによる感染

アデノウイルスⅠ型やレプトスピラなどによって起こります。細菌感染の場合には化膿性の肝炎が生じます。


中毒によるもの

アセトアミノフェンやキシリトール、エチレングリコール、植物のソテツなどが原因で中毒を起こすこともあります。こうした有害物質は食べ物の添加物として身体に入る以外にも、被毛についた芳香剤や柔軟剤、タバコの成分として皮膚から吸収されてしまう危険性もあります。これを防ぐには、食べ物だけでなく、生活環境の見直しも行ってあげることも重要です。


ホルモンの異常

脳や副腎の腫瘍や、なんらかの薬によって、副腎皮質ホルモンが過剰に分泌され、肝臓が肥大することでダメージを受けることがあります。


慢性的な肝炎

犬の加齢により肝臓の機能が衰えることもありますが、まだ若い犬の場合には遺伝が関連していると言われています。その他、ウイルスや細菌感染、有害物質などによって起こる急性肝炎が慢性化して、慢性肝炎に発展すると言われています。

犬の肝臓病の治療はどのように行うの?

liverdisease_01_p03肝臓病(肝疾患)はさまざまな要因で引き起こされます。肝臓自体よりも他の病気が原因で起こるケースも多いため、その場合は原因となっている病気の治療が必要になります。肝臓は再生が可能な臓器なので、肝臓にかかる負担を少なくすれば、肝機能を元に戻すことも期待できます。


病院へ連れて行くタイミングは?

中毒物質を食べたりしたのがわかっている場合には、すぐに病院に連れて行き、肝機能の検査をしてもらいましょう。ただし通常は、肝臓が相当のダメージを受けないと症状が現れない場合が多いので、食欲不振、元気がないなど、下痢など、さきほど述べた症状が見られたらすぐに獣医師を受診しましょう。

 

早期に発見するには、定期健診で視診・触診・聴診の他、血液検査や検便、尿検査などをしてもらうといいでしょう。また、一番身近にいる飼い主が、日ごろから犬の様子を観察することが大切です。排せつ物のチェックなどがヒントになることもあります。


治療方法

投薬治療を中心に通院し、肝臓の機能修復をしてくれる食事(療法食)で栄養管理するのが一般的です。ただし、肝臓がんに患っていたり、門脈体循環シャントを起こしていて症状が重い場合、根治を目指すのであれば外科的手術が必要になります。


治療費の目安

投薬治療のみで対応できる場合と手術が必要な場合で費用が大きく変わってきます。1万円以内で診療できる場合もありますが、中には小さくない金額がかかる場合もありますので、動物病院に事前に確認するようにしましょう。

肝臓病になった犬に注意すべきこと

投薬治療の場合、薬の量が多いなど飼い主の管理が大変かもしれませんが、犬がきちんと服薬できるようにしましょう。最近では、犬の身体に負担をかけないような漢方薬やサプリメントを処方する動物病院もあるようです。また、獣医師の指導に従って食生活を改善し、ストレスを与えないことも大切です。


普段の生活の注意点

肝臓病との向き合い方として、ストレスをかけないことが非常に重要になってきます。なので、普段の生活から過度にならない程度の適度な運動を取り入れていくなど生活の見直しを行いましょう。


食事の栄養バランスを整える

前述しましたが、肝臓病を予防するには栄養バランスを整えることが重要になってきます。中でも脂肪分が与える影響が非常に大きいため、脂質の多い食事やおやつには日頃から注意しておいた方が良いでしょう。市販のフードを与えるときには「総合栄養食」を与えると良いでしょう。

犬の肝臓病はどのように予防すればいい?

liverdisease_01_p04一番良いのは肝臓病自体にならないようにあらかじめ注意をしておくことです。効果的な予防方法についてはしっかりと覚えておくようにしましょう。


定期検診を受ける

肝臓病は初期症状が現れにくいので、普段から検診を受け、肝臓の状態を掴んでおくことが重要です。定期検診を受ける頻度として、8歳以降は半年に1度、11才頃からは34か月に1度が望ましいです。


サプリメントを使用する

肝臓病の予防には、消化性の良い良質なタンパク質、亜鉛、ビタミン、L⁻カルニチンなどを摂るのがいいとされています。また、肝臓のケアをするサプリメント(BCAA、プラセンタ、SAMe、マリアアザミ、ウコンなど)を取り入れて肝臓サポートをするのもオススメです。

専門家の コメント:

人間同様、大切な臓器である肝臓を病んでしまうことは、その生涯にとって大変な負担になります。まずは日ごろから、きちんとした食事、適度な運動、ストレスのない生活をさせて愛犬の健康管理をしたいものです。それでも遺伝など体質によって、愛犬が肝臓疾患にかかってしまうことはあるでしょう。修復機能の高い臓器である肝臓が元気を取り戻すこともありますが、老犬であればなおのことその治療が生涯に渡ることも多いです。飼い主は気長に愛犬の病気と付き合っていく覚悟が大切かもしれません。


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