2023年05月23日 更新 (2023年04月27日 公開)

一躍有名になった元保護犬の栗太郎
栗太郎くん(推定5歳)は元保護犬です。首輪のない状態で街を歩いている栗太郎くんが保護された後、すずき家の家族になったのは約3年前でした。

すずきさんから大事に育てられた栗太郎くんは、感情表現も豊か。ある日、突然始まった足踏みのような「ルンルン」はSNSを中心に話題を呼び、多くのメディアにも取り上げられました。
さらに、最近は栗太郎くんが店主を務めるユニークな「お店屋さん」シリーズもSNSで人気です。

お店に並べられた食べ物は、まるで本物さながら。全て飼い主・すずきさんが粘土で手作りしたものです。栗太郎くんと楽しめる催し物を、季節や行事に合わせていつも考えているのだそう。
そんな愛情いっぱいの時間を栗太郎くんと過ごす飼い主・すずきさんに、「ルンルン」ポーズの秘話や、ユニークな「お店屋さん」シリーズの裏話、栗太郎くんへの想いをお聞きしました。
足踏み「ルンルン」で見る人を幸せにする、ご機嫌な柴犬・栗太郎
栗太郎くんが「ルンルン」をし始めたのは、すずきさんの家族になって約1年後。ある日、散歩の後のルーティンのマッサージをしていたら、いつもと違うリアクションが返ってきたのです。
「腰のあたりをトントンと叩いてあげたら、突然そのリズムに合わせて栗太郎くんが足踏みをし出したんです」
「なんだ?この動き」と、すずきさんとご主人は面白がっていたら、しばらくすると、腰をさわらなくても自分でリズミカルに足踏みをするのが当たり前になっていきました。
「今では、散歩の後など、テンションが高いときに自分で勝手にルンルンしています。腰をさわると足踏みをする犬は一定数いるらしいのですが、自分から足踏みをする子はなかなかいないようですね(笑)」
栗太郎くんは、「ルンルン♪ルンルン♪」という声が聞こえてきそうなほど、ご機嫌な様子を素直に表現します。
「旅行先などでも、楽しいとルンルンしてくれるんです。連れてきてよかった!って嬉しくなります」

人懐っこい栗太郎くんは、「ルンルン」ポーズを家族のすずきさん以外にも惜しげもなく披露してくれます。
そのほか、すずきさんのお気に入りのポイントはゴロンと誰にでもお腹を見せる、栗太郎くんの愛嬌の良さ。頭をなでなでされるだけで、誰にでも心を許してくれます。このように穏やかで人が大好きなのも栗太郎くんの魅力です。人への恐怖心や警戒心は全く見えません。
「散歩中も、大半のワンちゃんは相手のワンちゃんのほうに近寄りますよね? でも栗太郎はまず人間に挨拶するんです(笑)」
「保護犬だって普通に可愛い」栗太郎との暮らしをSNSで発信する理由
栗太郎くんとすずきさんとの出会いは神奈川の動物愛護センター。
すずきさんが栗太郎くんに初めて会いに行ったときも、当時3歳の栗太郎くんはすずきさんに「わあっと」一直線で駆け寄ってきて、顔をペロペロなめて挨拶をしてくれました。
「愛想がすごく良くて、もう『大歓迎!』という感じだったんです。私も夫もそんな栗太郎の、真っ直ぐさに心を掴まれてしまいました」
すぐに飼い主募集に正式に応募し、無事迎え入れた栗太郎くん。保護犬は、人間に危害を加えられた経験をもっている場合もあり、人を見ただけでおびえる犬も少なくありません。すずきさんも、保護犬に対してはじめはそういう印象を抱いていたそうです。

「でも栗太郎の場合は、攻撃的になることもなく、家族として迎え入れてからも困ったことはほとんどありませんでした」
しいていえば、散歩の時にこちらのペースにまったく合わせてくれなかったことくらい。ハイペースでどんどん歩く姿を見て、散歩に慣れていなかったのかも? と思ったそう。
散歩以外に、食事や散歩などの生活習慣、またお手やおかわり、おすわりなどのコマンドもすずきさんが栗太郎くんに教えました。
「栗太郎のお手は、手のひらに前足がのらないんですよ。毎回空振りしているんです(笑)」
栗太郎くんは、退屈になると「ワオワオ」としゃべりながら前足をすずきさんの腕にのせようとしたり、ルンルンがしたくてトントンと腰を叩くようにおねだりしてきたりと日頃からよくすずきさんに甘えています。
そんなのびのびと過ごす栗太郎くんに癒される毎日を、すずきさんはSNSなどで発信しています。今では、フォロワーが5万人もいる人気アカウントとなり、取材などのメディアでの露出も増えました。
その背景には「保護犬だって普通に可愛い存在だって知ってもらいたい」という想いがあるといいます。保護犬であろうが、愛情をもってきちんと接したら、必ず愛情で返してくれるはず、とすずきさんはいいます。

「保護犬=問題がある子、と思われがちです。でも実際に、私が動物愛護センターを見学させていただいた時は、吠えかかってきたりする子は誰ひとりいませんでした。匂いを嗅ぎにきてくれたり、手を舐めてくれたりと、穏やかな子ばかり。そして、栗太郎のように人懐っこい元保護犬もいます。なので私たちの栗太郎との生活を通して、保護犬をもっと深く知ってもらえるきっかけになったらと思っています」
栗太郎くんで得たすべての収益は、保護犬のために何か役立てたい、と考えているそうです。
愛犬との「お店屋さん」シリーズは家族だけの秘密の楽しみ
栗太郎くんとの生活を楽しんでいるすずきさん。このすずき家を語るのに外せない遊びがあります。それは、粘土細工の「お店屋さん」シリーズです。

これまで大衆食堂、ケーキショップ、ドーナツショップ、アイスクリームショップなどがSNSで公開されています。その精巧さや栗太郎くんの名前をもじったメニューやロゴなどのユニークさから、瞬く間に多くのフォロワーから注目を集めました。

「昔から凝り性で、一つのことに集中して続けられるタイプ」と自身について分析するすずきさん。この作品たちは、完全にすずきさんの趣味なんです。普段は普通の会社員だそう。
きっかけは、コロナ禍で外出自粛が続いたこと。世の中が暗いムードだったため、「少しでも楽しんでもらえれば」と、試しにお店作りを始めたのがはじまりでした。
「当時は、外食などもできなかったじゃないですか。なので、雰囲気だけでもお出かけの気分を味わってもらえたらって、思ったんです」
栗太郎くんとの写真や動画に収めるだけのためでも、一切手抜きはしません。本物のお店に見えるように、食べ物などもクオリティ高く作り込みます。
すずきさん自身が、「やりすぎちゃったくらい」力を入れたと話すお寿司屋さんでは、シャリの部分まで一粒一粒米が立っているほどのこだわりぶりです。

「最初は、本当に料理をしていたんです。でも、人間が主人と私の二人しかいないので食べきれないし、太るしで(笑)。粘土細工なら食べなくてもいいかなと思って」
作るのは、たいてい栗太郎くんが寝ている間。
いつもお店番を担当する栗太郎くんは、最初の頃、帽子をかぶせようとすると「なんだよ~」と頭をふって落とそうとしていました。でも、回数を重ねるごとに慣れていき、今ではお店を組み立てていると、「俺の出番?」と協力してくれるようになったとか。
これまで作ったお店の数は、約30店。しかもその数々の作品たちは、写真撮影や動画の録画を終了すると作ったものをすべて処分しているのです。
「日常では使い道がないし、部屋には置ききれないので、今は撮影が終わると捨てています」
SNSでファンが多い、すずきさんの「お店屋さん」シリーズ。実は、この活動をリアルで知っているのはすずきさんのご主人だけなんです。身内、友人、知人、仕事仲間には一切知らせていません。
「自分から言うことでもないかなと思って、夫以外は誰も知らない私の素性です(笑)。ただ、SNSでお店屋さんシリーズを楽しみにしてくださるフォロワーさんも多いので、皆さんの期待に応えるためにも栗太郎と一緒にマイペースに続けていきたいです」
栗太郎のおかげで先代犬との思い出を笑顔で話せるように
Twitterはもともと柴犬の先代犬HちゃんとSくんとの日記として開設したもの。すずきさんにとっては、愛犬たちとの大切な思い出が詰まった場所なんです。

先代犬のHちゃんとSくんは同い年の夫婦でした。最初にSくんがすずきさんの家族になり、その後、保護犬だったHちゃんがすずき家へ。
「ご縁があってブリーダーさんにHちゃんを紹介されました。第一印象は、M字の眉毛が入ってて面白いなって。そうしたら、Sくんが最初からもうHちゃんのことが大好きで(笑)」
とても仲の良い夫婦としてたくさんの時間を一緒に過ごしたHちゃんとSくん。しかし、約5年前、Hちゃんは14歳6ヶ月で天国へと旅立ちました。
「悪性リンパ腫で、病気がわかった時には余命6ヵ月と言われました。それでも頑張って、余命より3ヵ月も長く生きてくれました」
最期まで頑張り屋のまま、ぎりぎりまで弱みを見せることなく亡くなったHちゃんに対し、すずきさんは「もっと早く気づいてあげていれば」「もっと何かしてあげられなかっただろうか」と、自分を責める気持ちでいっぱいでした。
「事前に宣告されたので、自分でもある程度覚悟できていたとは思っていました。でもやはり病気で亡くなったことが辛くて……」
また、HちゃんのかけがえのないパートナーだったSくん。Hちゃんが他界した時には、Sくんが涙を流していたのをすずきさんは今でもよく覚えているといいます。
「犬でもわかるんでしょうね。食欲も落ちて、すっかり元気がなくなってしまいました。とにかくSくんが心配で仕方ありませんでした」
Sくんになんとか元気になってほしいという気持ちで、Hちゃんがいなくなった悲しみから気を持ち直したすずきさん家族。Hちゃんが他界してからさらに2年後、Sくんは老衰のため16歳11ヵ月で亡くなりました。
それから3ヶ月後にやってきた栗太郎くん。すずきさんをつないでくれたのは、HちゃんとそっくりのМ字の眉毛でした。

悲しみに暮れたすずきさんたちの元に栗太郎くんが来て、家の雰囲気がすっかり明るくなったといいます。辛いペットロスも乗り越えられたのも、すずきさんを癒したり、外に連れ出したりと気持ちを前に向かせてくれる栗太郎くんのおかげかもしれません。
「先代犬たちが亡くなってからしばらくは思い出話も泣きながらだったのですが、栗太郎がいると、『HちゃんとSくんもこうだったね』と、楽しく昔の話を思い出せるようになりました。だから、栗太郎がうちに来てくれてよかったって毎日心から思っています」
第二の犬生をとにかく楽しく元気に過ごしてほしい
すずきさんはどんなに忙しくても、必ず栗太郎くんとの時間を作ることは欠かせません。
「どこまで言葉を理解してくれているのかはわからないですけど、話しかけると嬉しそうにこっちを見てくれるので、日々癒されています。何もしてくれなくていい。栗太郎がそばにいてくれるだけで安心するし、この子のために頑張ろうって思えるんです」

特に栗太郎くんの大好きなお散歩には時間をかけています。朝は出勤前に約30~40分、夜も帰宅後、約1時間半〜2時間くらいお散歩に出かけるのが日課です。休日は3〜4時間歩くこともあります。
「たくさん歩けた日と、新しい道を開拓できた時には、いつもより激しくルンルンをするんですよ。栗太郎の幸せそうな顔や仕草を見るだけで、1日の疲れも一瞬で吹き飛びます」

すずきさんに迎え入れられる前の栗太郎くんは、首輪なしで道を歩いているところを保護されて、飼い主さんが見つからないまま、飼い主募集がかかりました。
「以前はどんな暮らしをしていたのか、私たちは知りません。ただ、飼い主が変わることは犬にとっては辛いことだと思います。だから、私たちと暮らす第二の犬生こそ、とにかく楽しく、元気でいてほしいと願っています」
そんなすずきさんと栗太郎くんの目標は、町内の道を全て歩き切ること。ふたりで目標達成を目指して、毎日いろいろなルートでお散歩しています。