2023年08月17日 更新 (2023年07月19日 公開)

シベリアンハスキーの愛犬・ユキちゃんとくらす、獣医師のかもしかさん
穏やかな顔をした大きなシベリアンハスキーが寝ているそばに、小さな猫が2匹。母猫に甘えるようにピッタリとくっついて、耳をペロペロと舐めています。
ここまで犬と猫が仲良しなのはめずらしいようで、3匹の様子を投稿しているTwitterアカウントのフォロワーは33万人を超えています。
投稿主は、シベリアンハスキー「ユキちゃん」の飼い主である、かもしかさん。昔から犬猫がいるくらしが当たり前の生活を送り、今は獣医師の仕事をしています。

ユキちゃんにべったりな2匹の猫、レンくんとサンちゃんは、かもしかさんの実家の猫たちです。

獣医師をしているかもしかさんでさえ、犬と猫がここまで仲良くなるとは思っていなかったそう。
たくさんの犬猫に囲まれて育ったかもしかさんですが、ユキちゃんは、特別。それもそのはず、両親でなく自分が飼い主として初めて責任を持つことになった愛犬だからです。
「ユキは娘のような存在です。昔からハスキーが好きでしたが、ハスキーの中でもやっぱりうちの子が一番かわいいですね(笑)」

念願のシベリアンハスキーを迎えた当時の想いや、くらしに起きた変化とは? 獣医師であるかもしかさんならではの、動物を迎えることへの想いについても伺いました。
飼い主募集のポスターがきっかけ。憧れのシベリアンハスキーとの出会い
約6年前、獣医師としてペット保険の会社に勤めていたかもしかさんは、仕事の一環でペットショップを訪れます。そこには、『生後4ヶ月のシベリアンハスキーが新しい飼い主を探している』という内容の張り紙が。前の飼い主が家の都合で飼えなくなってしまった子でした。
「小学生くらいからずっとシベリアンハスキーが好きで、いつか飼いたいと思っていたんです。そのペットショップのスタッフさんにも、ハスキーが好きだとしょっちゅう話していたので、すぐに張り紙のことを教えてくれました」
張り紙を見て、かもしかさんのお母さんに確認。あっさりOKという返事だったため、その場で前の飼い主さんに電話をかけました。
こうして、かもしかさんは、念願のハスキーを迎えることになったのです。
「ユキは夜中にいたずらをしたり、ドッグランでも他のワンちゃんと揉めたり。とにかくやんちゃでした(笑)」

かもしかさんのハスキーへのこだわりは「純粋にかわいいから」。
特に推しのポイントは、狼に近いけれどつぶらで優しい瞳を持つお顔と、ダブルコートのもふもふ具合だそうです。

「シベリアンハスキーは、とにかく癒されます。大きくてもふもふな体を抱きしめて寝るのが本当に気持ちいいんです」
ハスキー界の推し犬に会うために始めたSNSアカウント
かもしかさんは、ユキちゃんを迎えたのち、SNSで22万人以上のフォロワーを誇る大人気のシベリアンハスキー「シルビアちゃん」に会いたい一心でユキちゃんの写真をSNSに投稿するようになりました。
「本当に、アイドルに憧れるような気持ちでした(笑)でも、よくわからない人に急に会いたいと言われても困惑されてしまうと思い、自分のTwitterアカウントにもユキの様子を投稿するようにしたんです」
のちに、シルビアちゃんに会いに、当時住んでいた大阪から九州まで車を走らせたかもしかさん。

シルビアちゃんに会って以降も、ユキちゃんと共にハスキーのオフ会によく参加しています。ユキちゃんと血のつながった親戚も山口県や九州の方に多くいることがわかったため、休日には旅行がてら会いにいくそうです。
「本当はインドア派なんですが、ユキを迎えてからかなりアクティブになりました」
去年の休日には、青森からフェリーで雪が降る-16°の北海道へ。函館や札幌、旭山動物園、帯広など1週間かけて車でユキちゃんと共に旅をしたこともありました。

「ハスキーならやっぱり1回は北海道に連れて行ってあげたくて。−16°で服を着なくてもへっちゃらそうでした」
やんちゃなユキちゃんが、子猫たちの母親的存在へと成長
幼い頃からやんちゃで元気いっぱいなユキちゃんですが、4歳の頃、子猫のレンくんとサンちゃんがやってきてからは、表情も少し穏やかになり、お母さんのような存在になっていきました。
「猫好きに見えるユキですが、実はこの2匹以外の猫とは仲が悪いんですよ(笑)」とかもしかさん。

子猫の頃からユキちゃんがお家にいたため、一緒にいるのが当たり前の環境だったことが、仲の良さにつながっているのかもしれません。
あまりSNSに載せていないだけで、実はかもしかさんのご実家には他にも猫ちゃんたちがくらしています。お互い干渉しすぎず一定の距離を取る。一般的な犬と猫の関係性なのだそう。
一方、ベタベタとくっつく猫2匹にはユキちゃんもご満悦そうです。

この2匹の猫のトイレトレーニングはユキちゃんがしてくれたといいます。一般的に、子猫が自分で排泄できないとき、母猫や飼い主が刺激を少し与えてあげることで排泄をうながします。なんと、それをユキちゃんが舌で舐めてやってくれていたそう。他にも、噛まれて痛いときは「ワン」と吠えたり、鼻でグッと押したりして、力の加減を教えてくれました。
「ユキはただ感情のままに動いているだけだと思います。それがたまたまお世話につながっているだけで」
至って冷静に語るかもしかさんですが、SNSに投稿された3匹のかわいすぎる様子には、犬猫好きから多くの反響が寄せられました。
まるで大喜利のように、ユキちゃんとレンくん、サンちゃんを擬人化し「こんなこと言ってそう」「こんなこと思ってそう」と、日々たくさんのコメントが殺到しています。
「僕にはない発想のコメントがたくさん届くので、見ていてとても楽しいです!」
生涯つづく、犬猫とのくらしを見据えて獣医師の道を志す
シベリアンハスキーといえば、体重20キロを超える大型犬。しかし、大型犬を飼うことへの不安は一切なかったといいます。
「昔も雑種の大きな犬がうちにいたし、僕の実家は犬猫合わせると9匹も飼ってきましたから。何の抵抗もなかったです」
かもしかさんのご一家では、新しい飼い主を探している犬猫がやってくるのは昔からよくあることでした。お母さんが急に猫をもらってくることもありました。そんな背景から、大型犬を迎えたいといったとき、お母さんも快諾してくれたようです。

かもしかさんの動物愛は、家庭での経験にとどまりません。「自分はずっと犬猫とくらす人生だろう」と幼少期から感じていたため、獣医師の資格も取得しました。
「獣医師にならなくても、犬猫を飼う限りは知識がどこかで役に立つだろうと進んだ道が、いまお仕事につながっています」
実家からの独立を機に、愛犬の仲良しな猫たちともお別れ…
2023年の5月、かもしかさんはご実家を離れ新生活をスタートしました。もちろんユキちゃんも一緒です。
しかし、仲良しの猫のレンくんとサンちゃんとはお別れ。毎月実家に遊びにはいきますが、毎日一緒にいるくらしは一旦終了しました。

そんな投稿に「こんなに仲良しなのに、離れてしまってかわいそう!」というコメントも多く寄せられました。
「当の3匹は特に寂しそうな様子は見せていません。久しぶりに再会すると、何事もなかったようにベタベタしています」と、かもしかさん。
かもしかさんが猫ちゃんたちと離れたのは、そもそも猫ちゃんたちの飼い主はお母さんだから。かもしかさん一家では、昔から犬猫1匹1匹の責任の所在を明確にしているのだそう。
「ユキの所有権は僕にあります。本当の意味で“自分の犬”なんです」
「愛犬の最終意思決定権は誰か」飼い主を決めておくことの重要性
責任の所在を明確にしておくこと。それは、その子が病気になったときの治療方針や日々の育て方において、「最終決定権は誰にあるのか」をあらかじめ決めておく意味で、大切です。
以前、かもしかさんのお母さんの猫ががんに罹りました。余命宣告される重たい病気です。息をするのがあまりに苦しそうなその子を見て『もう見てられないから』とお母さんは安楽死を選択しました。

「安楽死を選べない病院もあります。でも、僕は母が決めるべきだと思いました。僕は母がどんな判断をしようとも口を出しはしません。なぜならその子の飼い主は母なので」
獣医師として動物病院の臨床の場にいると、最終決定権が誰にあるのか決まっていないため、家族が揉める様子を見ることも多いそう。
「家族みんなでくらしていたとしても、万が一の場合は誰が責任を持つのかを決めておくことは、非常に重要なことであると痛感させられます」
お母さんが安楽死を選んだ猫ちゃんも、当時すでに獣医学の勉強をしていたかもしかさんにとっては「救いたいけど救えない」存在。葛藤で胸がいっぱいだったといいます。
「知識があると、もうこの子は助からないということもわかってしまう。飼い主さんは何とか救おうと一生懸命でも、余命があるのがわかってしまい苦しいときがありますね」
日常での1番の幸せは、ただ愛犬がそばにいてくれること
かもしかさんは獣医師として、「もう少し飼い主がペットに対して責任感を持ってほしい」といいます。犬は言葉を発さないため、万が一の意思決定はすべて飼い主にあると考えるからです。
「犬を飼うのは、想像以上にお金もかかることです。飼い主以外の誰も、その子に対して責任は取れませんから、ある程度の覚悟は必要だと思いますね」
ワンちゃんとのくらしは、抱える責任は大きいぶん、与えてくれる幸せもそれ以上に大きいものです。
ユキちゃんが来てからたくさん旅行に出かけたり、ユキちゃんと猫たちのくらしがフォトエッセイとして出版されたり、かもしかさんにとっての毎日は、ユキちゃんとの出会いで刺激的な日々へと変わりました。それでも、かもしかさんの一番の喜びは、「ただユキが横にいてくれること」だと言います。

「横でユキが一緒に寝てくれて、モフモフした体に触れさせてくれるだけでいいんです。僕にとっては、それがすべてですね」
犬猫とくらしていると、自分よりも短い命と向き合わなければいけないときがあるでしょう。そんな中でも、変わらず犬猫とのくらしをつづけるかもしかさんは、動物たちに対する大きな愛情を語ってくれました。