愛犬に健康に長生きしてもらうためにも、フラットコーテッド・レトリーバーがかかりやすい病気についても知っておきましょう。
股関節形成不全
股関節形成不全は、股関節に形態的な異常が現れることで、痛みや歩行異常が起きる病気です。発育期の栄養バランスや遺伝的要因などが発症に関与していると言われています。進行すると横座りをする、腰を振って歩くなどの症状が現れます。軽度であれば体重管理や痛み止めなどの内科治療を行いますが、重度になると外科手術が必要となります。
膝蓋骨脱臼
「膝のお皿」と呼ばれる膝蓋骨が正常な位置から外れてしまう状態のことです。遺伝的な要因の他、ケガや事故による外傷が原因となることもあります。脱臼の程度や骨の変形の度合いによって症状には幅があり、軽度の場合は無症状ですが、重度になると歩くことが困難になるケースも見られます。治療法は痛み止めやレーザー治療などの保存療法、手術による外科療法など、ステージに応じて選択されます。
進行性網膜萎縮症
眼球の奥にある網膜が変性し、視力が徐々に低下する遺伝性の疾患です。初期段階では視力の低下に伴い、ものにぶつかりやすくなる、動きが鈍くなるなどの異常が現れ、進行すると完全に失明してしまいます。瞳孔が開いた状態になるため、黒目がちでキラキラと輝く、一見すると「ビー玉」のような瞳になるのが特徴的です。決定的な治療法はありませんが、徐々に進行していく疾患なので、目が見えにくくても生活しやすい環境を整えてあげることが大切です。
てんかん
繰り返される全身性の発作を特徴とする脳疾患で、脳神経の一時的な興奮によって起こります。症状は、全身性のけいれんや意識障害、体の一部分のみの発作など、脳の興奮が起きた場所によって異なります。発作の時間は2~3分程度であることが多く、軽度であれば、その後は何事もなかったように過ごします。重度になると1日のうちに何度も発作が起きたり、数分以上にわたり発作が続いたりすることもあります。てんかんの診断には精密検査が必要で、他に該当する病気がないかを調べる「除外診断」という方法を用います。てんかんと診断されたら発作の頻度に応じて投薬治療を行うか、ごく軽い発作であれば無治療で経過を観察することもあります。
糖尿病
糖尿病は、血糖値を調節するインスリンの作用不足によって血糖値が高くなる病気です。高血糖になると、尿に糖が排出されるため「糖尿病」と呼ばれます。食事から消化吸収された糖が細胞に取り込まれず、血液中にとどまることで血糖値が高くなります。進行すると食べているのに痩せてくる、水をよく飲むといった症状が現れ、重度になると命に関わることもあります。肥満にならないよう食事の管理をしっかりと行い、適度な運動を心がけることが予防につながります。
悪性腫瘍
フラットコーテッド・レトリーバーは、他の犬種と比べて、悪性腫瘍を発症しやすいとされています。悪性腫瘍とは「がん」のことで、がんの特徴は転移や再発があることです。がんの症状はその種類や発生した場所、ステージ、転移の有無などにより異なります。
フラットコーテッド・レトリーバーに特徴的ながんとしては、組織球肉腫というものがあります。組織球と呼ばれる免疫に関わる細胞のがんで、非常に悪性度が高く急速に全身に転移します。発症の原因としては遺伝の関与が示唆されており、有効な予防法は残念ながらありません。食欲の低下や体重の減少などの体調の変化が見られたら、動物病院を受診するようにしましょう。
遺伝的疾患
ここまでご紹介してきたように、フラットコーテッド・レトリーバーは、股関節形成不全や膝蓋骨脱臼、悪性腫瘍など遺伝的疾患が比較的多い犬種です。親犬の遺伝的要素を受け継ぐので、親犬の遺伝子検査が行われていることが望ましいと言えます。
監修/堂山有里先生(獣医師)
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