2023年09月13日 更新 (2022年12月27日 公開)

垂れ耳の愛犬のために『イヤーシュシュ』を発明した小原若奈さん
垂れ耳の犬、例えば、アメリカン・コッカー・スパニエルやキャバリア・キング・チャールズ・スパニエルなどの飼い主さんたちの間で、人気となっている商品があります。
その名も『イヤーシュシュ』。

SNSで「#イヤーシュシュ」と検索してみると、長い耳をシュシュですっきりまとめた可愛いワンちゃんたちの写真がたくさん出てきます。垂れ耳のワンちゃんは、食事中やお散歩中に耳が汚れがちですが、これなら気にならなさそう。
『イヤーシュシュ』を世界で初めて考案・制作したのが、こだわりの犬アイテムを集めたオンラインセレクトショップ『Bonbon(ボンボン)』の店長・小原若奈(おはらわかな)さんです。
小原さんが、『イヤーシュシュ』を作ったのは、愛犬・だいもん君(アメリカン・コッカー・スパニエル)の耳の病気を防ぎたい……と思ったのがきっかけでした。
「垂れ耳の犬は耳の中が蒸れやすくて、外耳炎などの耳の病気になりやすいので、病気予防のために試行錯誤した末、シュシュという形になりました」と語る小原さん。
今では「可愛い!」「耳が汚れにくい」と評判を呼び、『Bonbon(ボンボン)』の看板商品になっています。新作が出る度に購入し、コレクションしてくださる方もいるんだとか。また、この発明は実用新案として特許庁により登録されています。

そこで、『イヤーシュシュ』を開発した背景や、愛犬との暮らしについて小原さんに直接お話を聞いてきました!
まるでツインテール? 「耳の蒸れを軽減したい」から生まれた犬用アクセサリー
——『イヤーシュシュ』は小原さんが世界で初めて考案されたということですが、何がきっかけで作ろうと思われたんですか?
小原若奈さん(以下、小原):愛犬・だいもんの、耳の蒸れを軽減したい、と考えているうちに、耳を何かで上に上げられないかな? と思ったのが始まりでした。
——耳が蒸れるとどうなってしまうのですか?
小原:だいもんのような垂れ耳の犬は、外耳道(鼓膜につながる道)に空気が通りにくいため、耳の中が蒸れやすく、外耳炎などの耳の病気になりやすいんです。定期的な耳のケアをしていても、すぐに耳が赤くなってしまったり、垢が出たりしてしまいます。
だいもんを病院に連れて行く度、「耳が蒸れやすいから気をつけてね」と言われていたこともあり、他の垂れ耳のワンちゃんのためにも、何か便利なアイテムを作れたらと思ったんです。

——具体的に、『イヤーシュシュ』はどのようなものなのでしょう?
小原:2つのシュシュがスナップボタンでくっついているものです。左右の耳にシュシュを通して固定して使います。

——とってもシンプルな構造ですね。
小原:はい。なるべくワンちゃんが装着しやすい仕組みで考えました。
耳を上に上げることで、通気性が良くなり、蒸れが軽減できます。いろいろと試行錯誤の末に、アクセサリー感覚で楽しく使ってもらいやすい、シュシュという形に落ち着きました。
愛犬・だいもんも、『イヤーシュシュ』を使っているおかげで、昔から懸念されていた耳トラブルもなく快適に過ごせています。
——素晴らしいアイデアですね。完成まではどのくらいかかったのですか?
小原:素材にもこだわり、構想から発売まで半年くらいはかかったと思います。
——どんな素材でできているんですか?
小原:基本的に綿100%の布とプラスチックのボタン、アクリルの樹脂です。誤飲が怖いので金具は一切使わず、ボタンは万が一、飲み込んでしまっても排泄されやすい大きさのものといったように、素材を厳選しています。
——なるほど、それなら安心です! 商品発表後の反応はいかがでしたか?
小原:ありがたいことにたくさんの反響をいただけました。
実は、1番初めは受け入れてもらえるかどうか確信がなかったので、予約販売でスタートしたんです。そこで、『Bonbon(ボンボン)』のブログでおそるおそる「欲しい人いますか?」と呼びかけたところ、予想以上の方から「欲しい!」というお声をいただくことができました。
——それは嬉しいですね。やはり、愛犬の耳のケアに悩む飼い主さんが多いということですね。
小原:そうですね。でも、単純に「可愛いから」という理由で買ってくださる方も多かったんです。
購入してくださった方がシュシュをつけた愛犬の写真をSNSなどに投稿、それを見てシュシュを気に入ってくれた方がご購入くださって……という風に広がりました。

——なるほど~。確かにツインテールみたいで可愛いです! 飼い主さんがSNSに投稿したくなるのもわかります。
小原:私は、飼い主さんがハッピーだとワンちゃんもハッピーだと信じているので、イヤーシュシュで飼い主さんがハッピーになってくれたら、本望です!
——他にどんな反応がありましたか?
小原:愛犬の耳の蒸れによく悩まされていた飼い主さんから「耳の風通しが良くなり、気持ち良さそうにしています」など、ポジティブなお声がたくさん届きました。
——垂れ耳のワンちゃんのお悩みを解消できたのですね。
小原:そうですね。少しはお役に立てたのかなと思います。さらに私自身、イヤーシュシュの開発途中でだいもんに使い始めてから気づいたのが、耳の汚れ防止としても役立つということ。耳が頭の方に寄せられて自然に引き上がるからです。
お客様からも「食事中や散歩中にシュシュをつけていると、汚れがつきにくくなった」というコメントをたくさんいただいています。

——たしかに、地面や床に耳が擦れないのはいいですね。
小原:そうなんです。あとは、「スヌード(※)嫌いな子が、シュシュなら付けてくれるので助かります」というお声も。
垂れ耳の犬の飼い主さんは、愛犬の食事中や散歩中にスヌードを使い、耳の毛の汚れを防ぐ方が多いのですが、スヌードは愛犬の可愛いお顔が隠れてしまいがちでもったいないなぁって思っていました。
(※)防寒や耳が汚れることを防ぐヘアバンド

——『イヤーシュシュ』はワンちゃんのお顔が良く見えるのが良いですね。
小原:はい。スヌードが苦手なワンちゃんや飼い主さんもいらっしゃるので、他に選択肢をご用意できたのはよかったと思います。

愛犬のために商品のデメリットも知ってほしい
——これまで、『イヤーシュシュ』を耳につけるのを嫌がる子はいなかったですか?
小原:いらっしゃいますね。最初は慣れず、嫌がって外そうとしてしまう子もいます。
その場合は、おやつを使って「シュシュをつけると、よいことがあるよ」と教えてあげると、少しずつ着けてくれるようになりやすいです。

——『イヤーシュシュ』をつけている途中で外れたり、抜けたりしてしまうことはないのですか?
小原:シュシュは愛犬のサイズに合わせて3段階にスナップボタンでサイズ調整できるようになっています。内側は透明の滑り止め(アクリル樹脂)もついていますが、それでも外れてしまう子も中にはいらっしゃいます。

いつもは丁度良いサイズでも、トリミングなどで毛量が少なくなると摩擦が減って、外れやすくなってしまうこともあります。
ただ、大きすぎて外れてしまう場合は、ゴム穴からゴムを取り出して端を結んで、短く調整していただくこともできます。
逆に「小さすぎて窮屈そう」という場合は、注文の際に「リフィルゴムを希望」とご記入を。無料のリフィルゴムを商品と同封してお送りするので、愛犬にちょうどよい大きさに調整して使ってあげてください。
——なるほど。サイズ調整も柔軟にできるのはありがたいですね。では垂れ耳の犬種なら、どの犬種でもシュシュを使えるのでしょうか?
小原:いいえ、残念ながらそうではありません。垂れ耳でも耳の小さい子や毛量の少ない子、毛を短くカットしている子は外れやすいんです。目安体重は7kg以上となっています。
特にトイプードルの飼い主さんから「うちの子にも使えますか?」と、よくお問い合わせをいただきます。実家の愛犬(トイプードル)をモデルにサイズを小さくしたり、滑り止めを変えてみたりと何度も試行錯誤したのですが外れてしまいました。
犬種によって耳の形や厚み、大きさが全く違うため、いまのイヤーシュシュの構造では対応が難しいようです。ごく稀に体格がすごく良い子や毛量がたっぷりある子だと大丈夫なことがあるのですが、やはり外れやすいので、その旨をご了承いただいた上でご購入いただいています。
使えるかどうか判断がつかない場合は、ぜひ、お気軽に『Bonbon(ボンボン)』までお問い合わせください。

——そうなんですね。
小原:どんなに良い商品も、多かれ少なかれデメリットはありますよね。
うちのオリジナル商品は今のところ『イヤーシュシュ』だけですが、通販サイトなので、他の商品も置いています。ただし、取り扱うのは私と愛犬・だいもんが実際に使ってみて、「これならぜひオススメしたい!」と思う物だけ。
『Bonbon(ボンボン)』では、お客様に知らせておいた方が良さそうな点がある商品については、しっかりその点を私自身がレビューに書いてお知らせしています。
人それぞれ捉え方が違いますから、その点を踏まえてお買い物いただけたらと考えています。
——マイナス点も正直にお伝えしている姿勢から、小原さんの誠実さや犬への愛情の深さがよく伝わってきます。小原さんは『Bonbon(ボンボン)』開店前から、犬に関係するお仕事をされていたのですか?
小原:いえいえ。ウェブデザインやコーチングなど、犬とは関係のない仕事をしていました。ただ、ある時期、仕事で悩んだことがあって、次は自分が純粋に「好きだ!」と思える仕事をしようと思ったんです。
だとしたら、私には犬しかないなって。それで、いろいろ考えた結果、ウェブデザインやマーケティングのスキルも活かせるECサイトを立ち上げることにしました。
——そうだったのですね。商品の情報収集や仕入れはどうしたのですか?
小原:メーカーさんに直接連絡して、交渉しました。どのメーカーさんも、「個人経営のECで、お客さんとしっかり向き合ってくれるなら」と了承してくださいました。
——オープン後の反応はいかがでしたか?
小原:正直、最初はさっぱりで……(笑)。いろいろ工夫したのですが、サイトへの訪問がなかなか伸びずに苦戦していました。
今のようにたくさんのお客様にご利用いただけるようになったのは、サイトオープンから2年目に『イヤーシュシュ』を発売してからです。
——『イヤーシュシュ』の開発が転機となったのですね!

犬と飼い主さんに「商品」ではなく「ハッピー」を届けたい
——『Bonbon(ボンボン)』のサイトではお客様のコメントがたくさん紹介されていて、すごく参考になります。
小原:私自身も、お客様のコメントからたくさんの気づきや学び、そして励ましをいただいています。
例えば、手術の後に顔にカラーを付けている子の耳が蒸れてしまって困っていた飼い主さんからのご報告。
「シュシュを付けたら蒸れが改善されて、ご飯も上手に食べられるようになった」と言っていただき、術後のケアにも役立てていただけることを知りました。
——飼い主さんのお声が新たな活用方法の発見にもつながっているんですね。
小原:はい。そういったお声をいただいて、犬の健康と飼い主さんの幸せのために、良い商品を作り続けたいと改めて思いました。
——ものづくりのモチベーションになりますね。
小原:ありがたいことに、『イヤーシュシュ』はリピート買いしてくれるお客様が多く、中には新作が出る度にご購入して、コレクションしてくださる方も。
発送した商品が届いたら、その日のうちに「届いたよ! 今回も可愛い~」とメールで連絡をくださるお客様もいて、私もすごく幸せな気持ちになります。
——当日にレビューがいただけるって、すごいですね。商品が届いた時の喜びが伝わってきます。
小原:愛犬の健康はもちろん、飼い主さんの心がほんわかとハッピーになってもらうのが、『Bonbon(ボンボン)』の一番の願い。
そのために、ご注文いただいたお客様一人一人に、メッセージレターを入れたり、ちょっとしたおやつをサプライズで封入したりの工夫をしています。

——素敵な心掛けですね!
小原:単に「商品を受け取る」というのではなく、プレゼントが届いたときのようなワクワク感、高揚感を飼い主さんに楽しんでもらいたいなと思っているんです。

——『Bonbon(ボンボン)』オープンから10年が経とうとしていますが、新たに取り組んでみたいことはありますか?
小原:まだ構想の段階ですが、お客様の声を反映した、『イヤーシュシュ』の関連商品を企画中です。詳細が決まったらお知らせしますので、お楽しみに!
あとは、ドッグフードをはじめ、商品のラインアップを少しずつ増やしていけたらいいなあと思っています。
看板犬のだいもんは今年9歳になったので、そろそろシニア期に備えて、これまで以上に歯や筋肉のケアにも取り組んでいくつもりです。
その過程で見つけた良い商品も『Bonbon(ボンボン)』で紹介したり、知識や情報をSNSなどで皆さんに共有しつつ、『Bonbon(ボンボン)』を単なる買い物の場としてだけでなく、皆さんがハッピーに笑顔になれる交流の場として、育てていけたらいいなと思っています。
——新商品や今後の展開も楽しみです! 小原さん、貴重なお話をありがとうございました。