2023年09月13日 更新 (2023年07月07日 公開)

犬が犬の命を救う仕組み『Dog Saves Dog』を考えた近藤正純ロバートさん
政府の統計によると、2021年度に全国の保健所などに持ち込まれた犬と猫は計5万8,907頭に上りました。
このうち殺処分されたのは計1万4,457頭(環境省 統計資料 「犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況」)。

年々少なくなっているとはいえ、いまだにこんなに多くの犬や猫が殺処分されていることに驚いた方も多いのではないでしょうか。
実業家の近藤正純ロバートさんも、その一人。

2009年、結婚を機に初めて犬と暮らすようになった近藤さんは、飼い主と一緒に幸せに暮らす犬がいる一方で、保健所に収容されたり殺処分されてしまう犬もたくさんいることを知りました。
「なんとかして恵まれない犬たちを、継続的に救う方法はないだろうか」と考えた近藤さん。
そして考え出したのが、『Dog Saves Dog』、文字通り「犬が、犬を救う」という、これまでにないコンセプトの寄付の仕組みです。いったい、どんな仕組みなのでしょうか。近藤さんにお話を伺いました。
アナウンサー島田彩夏さんの愛犬と暮らし始めて知った、恵まれない犬たちの存在
アメリカで生まれ、幼少期は日本と海外を行き来する暮らしをしていたこともあり、2009年に結婚するまで犬と暮らしたことがなかったという近藤さん。
奥様でフジテレビのアナウンサー島田彩夏さんが独身時代から飼っていたフレンチブルドッグのウリ坊くんが、近藤さんにとって初めての愛犬でした。

はじめの近藤さんとウリ坊くんの相性はあまり良くなかったといいます。
「最初は警戒されていて、噛まれたり、彼女との間に割り込んできたりしてきました。ウリ坊にしてみれば、僕は家に突然現れたよくわからない“部外者”だったのでしょう(笑)」
やがて島田彩夏さんと一緒に暮らすようになり、ウリ坊くんともお互いの仲を深めていった近藤さん。
「心を通わせてくれるウリ坊を見て、僕もウリ坊が大好きになりました。そのとき生まれて初めて、犬と一緒の暮らしの楽しさ・素晴らしさを知ったんですよね」
そしてウリ坊との暮らしをもっと楽しもうと、近藤さんが犬に関する情報を集めているとき、恵まれない犬たちの存在を知ったのです。
今でこそ、犬の殺処分数はかなり減っていますが、2009年当時は年に6万頭以上の犬が殺処分されていました。
近藤さんはあまりの数の多さに驚き、さらに調べてみると、保健所には殺処分される犬の数を大きく上回る数の犬が持ち込まれていること、そしてその犬たちが殺処分されないように保健所から引き取る活動をしている保護団体の方々がいることを知りました。
「うちのウリ坊のように大切に飼われている犬がいる一方で、恵まれない境遇での暮らしをしている犬がたくさんいる……。当時は、単純にかわいそうだと思いましたし、殺処分から免れて団体に保護された犬たちのためにも何かをしたいと思いました」
寄付が根付かない理由は? 楽しみながら続けられる動物保護支援を模索
そこで、手始めに保護団体への寄付を始めた近藤さんですが、何か物足りなさを感じていました。
「寄付って『かわいそうという気持ち』だけでは、なかなか続けにくいものなんですよね。たとえば日本では多頭飼育の現場が崩壊した…というようなニュースが流れると一時的に保護団体への寄付が集中しますが、しばらくすると潮が引くように寄付が減って元の状態に戻ってしまうのが事実です」
もちろん、1回限りの寄付が無駄なわけではありません。しかし、問題を根本的に解決するには継続することが大切、だと考えます。
「じゃあ、どうやったら寄付を継続できるだろうって考えたときに、やはり楽しいことじゃないと人間長続きしないよなって思ったんです。趣味だって仕事だってそうですよね。長続きしているのは楽しいからですよ。寄付もきっと同じで、寄付する側の僕たちが楽しみながら寄付ができる仕組みを作れば、続けられるんじゃないかと思いました」
愛犬のオリジナルアイテムを買うと、恵まれない犬への寄付に繋がる『Dog Saves Dog』
では、具体的にどのような仕組みにすればいいのか。考えた末に思いついたのは、現在のプロジェクト名にもなっている『Dog Saves Dog=犬が犬を救う』というコンセプトでした。
愛犬の写真で作ったオリジナルアイテムを購入すると、その代金の一部が保護団体に寄付される仕組みです。
『Dog Saves Dog』の仕組み
- LINEで『Dog Saves Dog』のアカウントを友だち登録する
- LINEで『Dog Saves Dog』のアカウントに愛犬の写真を送って、リボンマグネット(※)の購入手続きをする
※主に車に貼って特定の活動への支援の意志を示すマグネットのこと
- 購入から約10日後に愛犬の顔写真&名前入りのリボンマグネットが届く
- リボンマグネットの売上の一部がNPO団体ARKに届けられ、保護犬たちの医療費や食費、里親探しにかかる費用に充てられる
インターネット上では、現在愛犬の写真をTシャツやトートバックに焼き付けるサービスがたくさんあります。愛犬の似顔絵やフォトブックを作っている人も増えています。
「僕を含め、愛犬家は自分の犬の写真を撮るのが好きですし、それを使ったグッズを作るのも好きですよね。そこで考えついたのが、このサービス。愛犬のための買い物を楽しみながら自然な形で寄付ができますし、続けやすいですよね。何より、自分の愛犬のための買い物=愛犬がきっかけの行動ですから、愛犬が主役です。これなら、愛犬が恵まれない犬を救う、文字通り『Dog Saves Dog』の仕組みが実現できる、と確信しました」
さっそくこの仕組みを周囲の犬好きに話してみると賛同の声が多く集まり、2010年から『Dog Saves Dog』の活動が本格的にスタートしました。
現在、LINEで購入できるのはリボンマグネットだけですが、過去には個別のオーダーに応じて愛犬の顔を刺しゅうしたポロシャツや愛犬をかたどったチャーム、愛犬の名刺など、飼い主さんの要望に応じてさまざまなオリジナルアイテムを作り、寄付に繋げてきたそうです。

大切な愛犬だからこそ、妥協しない。継続的な寄付を募るためのこだわり
近藤さんの奥様の仕事仲間であるテレビ局関係者や犬好きの著名人の皆さんが口コミで広げてくれたため、大々的なプロモーションはしていません。しかし、これまでに約1,000人の方が『Dog Saves Dog』に賛同し、愛犬のグッズを購入し、寄付をしてくれました。
「寄付が集まるのも嬉しいですが、愛犬のグッズを手にした皆さんが喜んでくれるのが嬉しいですね」
そんな近藤さんがオリジナルアイテムの制作で一番こだわっているのが、とにかくクオリティの高いものをつくること。
リボンマグネットの愛犬の写真は、愛犬が一番可愛らしく魅力的に見える表情や角度の写真をプロのデザイナーが厳選してレイアウトしています。リボン部分には、愛犬の毛並みを美しく表現しています。

過去に制作したオリジナルポロシャツでは腕の良いプロの刺繍作家さんにお願いして、1点ずつ手作業で胸元に愛犬をモチーフにした刺繍を施してもらったそう。実際、私服として着ていても遜色がないほどのハイクオリティさに自信があるといいます。

「私自身、着ていると『お、それいいね。どこのブランド?』と聞かれることが多いです。そんなとき、『うちのワンコのブランドだよ』って胸を張って答えてもらえるくらいに仕上げました。寄付を増やすことだけを考えると、低クオリティのモノを作って原価を抑えたほうがよいという意見もあるかもしれません。ですが、大切な愛犬の顔が低クオリティのアイテムにデザインされるのは気持ちのいいものではありませんし、リピート買いしようと思わないですから、やはりこれからもクオリティにはとことんこだわっていきたいと思っています」
社会の役立つ取り組み『Dog Saves Dog』で世界を見据える
『Dog Saves Dog』の、支援する側とされる側の双方にメリットがあるという仕組みは、近藤さんの弟、近藤正晃ジェームスさんがスタートした『TABLE FOR TWO International』に通ずるところがあります。
『TABLE FOR TWO International』では、指定のヘルシーメニューを購入すると、その分、アフリカやアジアなどの子供達への給食費の支援金となります。先進国の肥満や生活習慣病の解消を考えつつ、開発途上国の飢餓を救える、世界的な取り組みです。
『Dog Saves Dog』はここ数年、近藤さんご自身の育児が忙しかったことやコロナ禍もあり、活動を縮小していましたが、2023年からは『TABLE FOR TWO International』のように海外展開も視野に活動を再度拡大していく予定です。
その背景には、社会の意識変化も大きく影響しているといいます。
コロナ禍を経て、世の中にいわゆるSDGsの意識が社会全体にかなり浸透してきていて、何かを行う際に「それは社会や環境にとって良いことなのか・悪いことなのか」と考える人が増えていることも変化のひとつ。
「たとえば、うちには小学校低学年の息子が2人いるのですが、彼らのような小さな子どもにもそういう意識が根付いていて、僕がご飯を残すと、『お父さん、だめだよ。フードロスになっちゃうよ』と注意してきたりするんです(笑)」

今後は同じ買い物をするにしても、何か社会的に意義のある方法で買い物をすることが当たり前になってくる、と近藤さんは考えます。そうなると買い物するだけで寄付ができる『Dog Saves Dog』の仕組みは、これまで以上にいろいろな分野で活用できるでしょう。
より多くの人に『Dog Saves Dog』を利用してもらえばもらうほど、多くの犬たちが犬からのギフトを受け取れる。そんな幸せのループをどんどん作っていきたいという近藤さん。
「活動の輪を広げていくために、今後力を入れていきたいと考えているのが国内外の企業とのコラボレーションです。先ほど申し上げたように、コロナ禍を経て消費者の意識が大きく変わり、社会的責任を果たさない企業、SDGsを実践しないビジネスは消費者から選ばれなくなりつつあります」
こうした消費者の変化に合わせて、日本でも近年は社会貢献活動に注力する企業が増えていますが、『Dog Saves Dog』は企業による社会貢献活動との親和性が非常に高い仕組みです。
「顧客にショッピングやアイテムづくりを楽しんでもらいつつ、社会課題の解決に貢献できるわけですから、顧客も企業も社会もハッピーにできる仕組みとして、ぜひ企業の社会貢献活動の一環として『Dog Saves Dog』を取り入れていただきたいと願っています」
いつまでも、愛犬が仲間を救うヒーローであり続ける
10社を超える企業の経営にかかわる実業家でもある近藤さん。激務の傍ら、10年以上にわたって『Dog Saves Dog』の活動を続けている背景には、「何か1つくらい社会に役立つことに取り組んでいたい」という想いがありました。
「正義感とか、そんな大それたことではありません。子どもたちにも『お父さん、なかなか良いことやってるじゃん』って思ってもらいたいですしね(笑)」
また、『Dog Saves Dog』の参加者のなかには、亡くなった愛犬の写真でオリジナルアイテムを作る方もいます。
「2015年にウリ坊は亡くなってしまったのですが、今でも僕はウリ坊のアイテムを使い続けていますし、これからもいろんなアイテムを作りたいと思っています。そうすることで天国のウリ坊は、恵まれない犬たちを助けるヒーローであり続けてくれるからです」
近藤さんにとってウリ坊は、犬と暮らす喜びを教えてくれた大切な存在。愛犬ウリ坊を想って、ウリ坊のオリジナルアイテムを身につけながら、活動を続けます。
皆さんも近藤さんのように「何か1つ、社会にいいこと」、始めてみませんか?

自分で保護活動を行うことは難しくても、寄付という形で保護活動をサポートするのであれば、ぐっとハードルは下がるでしょう。『Dog Saves Dog』という形であれば、皆さんの愛犬も必ず、恵まれない犬たちを救うヒーローやヒロインになることができますよ。