犬の皮膚にいい食事とは?おすすめの食材やアレルギーがある場合のドッグフードの選び方を獣医師が解説

五十嵐里菜(獣医師)

五十嵐里菜(獣医師)

オールペットクリニック所属。日本獣医皮膚科学会認定医。 アメリカChi University Veterynary Food Therapyコース修了。

犬の皮膚にいい食事とは?おすすめの食材やアレルギーがある場合のドッグフードの選び方を獣医師が解説
犬の皮膚にいい食事とは?おすすめの食材やアレルギーがある場合のドッグフードの選び方を獣医師が解説

目次

  • ・ 赤いブツブツ、かさぶた、脱毛、かゆみなど犬の皮膚トラブルの原因
  • ・ 膿皮症やマラセチア皮膚炎など、犬に起こりやすい皮膚の病気と対処法
  • ・ 皮膚病やアレルギー性皮膚炎になりやすい犬種は?
  • ・ 犬の皮膚に良い食事は、栄養バランス・タンパク質・脂質が重要
  • ・ 食物アレルギーが疑われる犬の食事で注意するべきこと
  • ・ 犬のアレルギー性疾患で使用される療法食の種類
  • ・ 愛犬に食物アレルギーが疑われる場合のドッグフードの選び方
  • ・ 食物アレルギー以外の皮膚疾患がある場合のドッグフードの選び方
  • ・ 食物アレルギーや皮膚が弱い犬の食事におすすめのトッピング

犬の皮膚トラブルは、動物病院を受診する理由で一番多い症状です。愛犬に皮膚疾患や食物アレルギーがあった場合、食事はどのように気をつければ良いのでしょうか? 日本獣医皮膚科学会認定医の五十嵐里菜先生が詳しく解説します。

赤いブツブツ、かさぶた、脱毛、かゆみなど犬の皮膚トラブルの原因

犬の皮膚トラブルの原因

犬を飼っている方なら一度は愛犬の皮膚にニキビのような赤いブツブツ、かさぶた、脱毛、かゆみなどの症状を見つけたことがあるのではないでしょうか? 

 

犬の皮膚は人の皮膚に比べて薄く、非常にデリケートです。犬の皮膚トラブルの原因には、栄養の過不足、ノミやダニなどの寄生虫、細菌やカビなどの感染症、免疫が要因となるアレルギー、不安などの心の状態によって引き起こされるものまで多岐にわたります。

 

犬の皮膚には細菌やカビ、アレルゲンなどの外部刺激から保護する機能がありますが、様々な要因でバリア機能というものが弱くなると皮膚トラブルを起こしやすくなります。

膿皮症やマラセチア皮膚炎など、犬に起こりやすい皮膚の病気と対処法

犬に起こりやすい皮膚の病気と対処法

膿皮症

皮膚の細菌感染症。主に犬の皮膚の常在菌の一つであるブドウ球菌が、通常のバランスを保てず異常に増えてしまい起こる皮膚炎。

 

マラセチア皮膚炎

犬の皮膚や外耳道に常在している酵母様真菌(カビの一種)が通常のバランスを保てず異常に増えてしまい起こる皮膚炎。

 

アトピー性皮膚炎

花粉やハウスダストなどの環境性アレルゲンにより身体の免疫反応が過剰に反応するアレルギー性皮膚炎の一つ。

 

食物アレルギー

食べ物(ほとんどの場合食べ物のたんぱく質)に対して身体の免疫反応が過剰に反応するアレルギー性皮膚炎の一つ。

 

また、犬の皮膚トラブルは様々な要因が複雑に絡み合って症状を引き起こしている例が多く、お薬だけではなく、皮膚のバリア機能と関係するシャンプーや保湿剤、ブラッシングなどのスキンケア、毎日の食事、加湿や温度調節など生活環境の改善など様々な方面からのアプローチが必要になります。

 

お薬だけではうまく皮膚の状態をコントロールできなくても、食事療法やスキンケアを加えることで症状を安定させることができるケースは少なくありません。

 

病院へ行くほどの皮膚症状はなくてもよく手足を舐める、フケがよく出るなどのトラブルで悩んでいる飼い主さんも少なくないと思います。そういった場合には、食事の見直しや栄養の改善が皮膚バリア機能の改善に役立つ場合があります。

皮膚病やアレルギー性皮膚炎になりやすい犬種は?

皮膚病になりやすい犬種

どんな犬種であっても皮膚病になる可能性はありますが、日本でよく飼われている犬種の中では柴犬やフレンチブルドッグ、パグ、ゴールデンレトリーバー、シーズーなどは皮膚病の発生リスクが高い犬種です。

 

特に柴犬やレトリーバー種、フレンチブルドッグなどはアトピーなどの免疫が関連するアレルギー性皮膚炎の好発品種です。こうした品種の皮膚バリア機能は他の犬種に比べて弱いことが分かっています。そのため、外的刺激に弱く、かゆみなどの皮膚トラブルを引き起こしやすいと言われています。

 

このような皮膚トラブルの発生が多く、皮膚のバリア機能が弱い犬種ではかゆみや炎症を抑えるために飲み薬や塗り薬を使い症状を管理することも大切ですが、皮膚バリア機能の強化やお薬を減薬させるためにもスキンケアや食餌療法が大切になってきます。

 

犬の皮膚に良い食事は、栄養バランス・タンパク質・脂質が重要

犬の皮膚に良い食事の考え方

犬の皮膚に良い食事を考える上で大切なポイントは、次の3つです。


  1. 栄養バランス
    皮膚は栄養のバロメーターと言われており、栄養バランスの偏りは皮膚に出ることが多いです。まずは与えている食事に足りない栄養素がないか確認しましょう。手作り食で不足しがちな亜鉛は、長期間不足が続くと亜鉛欠乏症という病気を引き起こし、脱毛やフケなどの症状が出ます。

    総合栄養食であっても、保存状態が悪くフードに直射日光が当たり続けたり、湿度が高い状態が続いたりすると栄養価が変化することもあります。保管方法に気を付け、開封から1カ月程度で食べきるようにしましょう。

  2. タンパク質
    皮膚に対する栄養素で最も大切なのはタンパク質です。食事から摂取したタンパク質の約3割が皮膚や被毛を作る材料になると言われています。

    また、皮膚に良いタンパク質を考える上で注目したいのは消化率です。タンパク質は消化酵素によってアミノ酸に分解され栄養素として吸収されます。未消化のタンパク質は身体の栄養にならないだけでなく、食物アレルギーの原因となることもあります。タンパク質の消化の良さはアレルギーを防ぐためにもとても重要です。

    タンパク源として肉や魚を与える場合は、生よりも加熱処理されているものの方が消化されやすくなります。また、皮膚用のドライフードではこういった消化率を考えて原材料が選ばれていたり、特別な加工がされているものがあります。

  3. 脂質
    ダイエット食など低脂質の食事を続けていると毛艶が悪くなったり、フケが増えたなどの問題が出てくることがあります。脂質というと、太るイメージがあり愛犬の食事を与える上で低脂質にしているという方もいるかもしれません。

    病気によっては低脂質の食事が推奨されることもありますが、脂質は犬にとって重要な栄養源であり、皮膚の健康のためにも必要不可欠です。


犬の皮膚の健康保つために必要な栄養素
皮膚を健康に保つためには1つの栄養素だけでなくたくさんの栄養素が必要になります。その中でも代表的なものを紹介します。

 

  • タンパク質:皮膚・被毛の材料となる
  • ビタミンA:皮膚の代謝や皮脂分泌を調整 
  • ビタミンB群:被毛の質の向上、フケの減少、皮膚の健康を保つ
  • オメガ3系不飽和脂肪酸:炎症を抑える
  • オメガ6系不飽和脂肪酸:被毛の質の向上
  • 亜鉛:皮膚バリア改善・被毛の質向上

食物アレルギーが疑われる犬の食事で注意するべきこと

まずは何に食物アレルギーがあるのかしっかりと診断することがとても大切です。様々な食材やフードをあれこれ試したのに、結局何にアレルギーがあったのかよくわからないという飼い主さんは少なくありません。

 

また、血液によるアレルギー検査は100%確実な検査ではないので解釈には注意が必要です。食物アレルギー診断のゴールドスタンダードは、除去食試験と負荷試験です。まずはきちんと食べられる食材と食べられない食材を獣医師とともに判断することが大切です。

犬のアレルギー性疾患で使用される療法食の種類

犬のアレルギー性疾患が疑われる場合に使用される療法食には、次の種類があります。

 

  1. 加水分解タンパク質フード
    タンパク質を加水分解したペプチドやアミノ酸を材料として加工されたフードのこと。加水分解されることで消化率が上がり、また体にアレルゲンとして認識されにくくなる。

  2. 新奇タンパク質フード
    カンガルーやアヒル、鹿肉などドッグフードの材料として使用されないたんぱく源が使用されているフードのこと。これまで食べたことが無いタンパク質に切り替えることでアレルギー反応を起こさない食物を見つけることができる。

  3. 家庭食(ホームメイド食)
    今まで口にしたことの無い食材(特にタンパク質)を選び、それらを材料として過程で作るフードのこと。長期間給与する場合は、獣医師などが栄養バランスを計算する必要がある。

愛犬に食物アレルギーが疑われる場合のドッグフードの選び方

療法食を使用する場合は必ず獣医師に相談の上で選んでください。食物アレルギーの治療には原因物質を避けた食事療法が何よりの治療法となります。原因物質が何かわからない場合は以下の方法でアレルギーの原因物質を探してください。

犬のアレルギー原因物質の探り方

  1. 今まで与えていたフードやトッピング、おやつなどの原材料をすべて書き出す。
  2. 1のリストに載っていない与えたことの無い原材料で作られたフードを探す。
  3. 1が正確に書き出せない場合や2のフードが見つけられない場合は、以下の「犬がアレルギーを起こしやすい食材」が含まれていないフードを与えてみる。

    犬の食物アレルギーの原因として報告されている食材

    1位 牛肉
    2位 乳製品
    3位 鶏肉
    4位 小麦
    5位 鶏卵

    出典元:Mueller RS,Olivry T,Prelaud P.Critically appraised topic on adverse food reactions of companion animals (2): common food allergen sources in dogs and cats.BMC Vet Res 2016,12,9.

  4. 選んだフードだけを8週間程度給与し、皮膚症状に改善が見られるかを観察する

食物アレルギー以外の皮膚疾患がある場合のドッグフードの選び方

食物アレルギーが除外される場合は、抗酸化物質やDHAやEPAなどのオメガ3系脂肪酸など皮膚に良い成分が含まれているフードを選んでください。

 

皮膚に良いフードは、脂質が多く含まれている場合が多く、膵炎や肥満傾向にある犬には向かない場合もあります。健康上の問題がある場合や、皮膚用フードの組成が体質に合うのかわからない場合はかかりつけの獣医師に相談されることをお勧めします。

食物アレルギーや皮膚が弱い犬の食事におすすめのトッピング

食物アレルギーがある場合のトッピングは、必ず現在食べているフードに含まれている食材を使用してください。

 

また、食物アレルギーが疑われている場合は、現在の食事(アレルギー症状が出ない安全な食事)に1種類の食材(例:リンゴだけ、ササミだけなど)をティースプーン一杯程度追加し1週間程度続けて食べさせてください。1週間の間に皮膚症状が再発したりかゆみが再燃しないようであればその食材はアレルギーの原因にはならないと判断できます。

 

アレルギー体質の場合は、上記のような方法で1つの食材を1週間ずつ試してみて、食べられる食材を選別してください。

 

皮膚が弱い犬のトッピングには「グルコシルセラミド」の成分が含まれる食材がおすすめです。グルコシルセラミドはセラミドを作り出す成分のひとつで、摂取することでセラミドが増えて保湿機能が高まる効果が期待できます。アトピー性皮膚炎ではセラミドが不足することが知られているので、積極的に摂取することでセラミドが増え、皮膚のバリア機能の向上が期待できます。

 

グルコシルセラミドが入っている食品は様々ありますが、その中でもお勧めは「米糀」。米糀で作った甘酒は皮膚が弱い犬のトッピングにもおすすめです。※お米に対してアレルギー反応が認められる場合は与えないでください。



私たち飼い主は肌荒れが気になるときビタミンを多く摂ったり脂分を抑えたりと食事を自分で変化させることができます。愛犬は食べるものを自分では選べません。飼い主が変化に気づき、食事を工夫してあげる必要があります。

 

食事は薬ほどの即効性や効果はありませんが、皮膚炎を予防したり治りを速めたりする効果が期待できます。皮膚が弱い子たちはぜひ、お薬やサプリだけでなく食事についても見直す機会をもってみてください。


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