犬の視力はどのくらい?色の識別能力や視力低下時の対処法を解説【獣医師監修】

犬の視力はどのくらい?色の識別能力や視力低下時の対処法を解説【獣医師監修】

病気・健康

2022年09月10日 更新 (2022年07月23日 公開)

かどのペットクリニック院長。皮膚科や小児科、産科分野に興味があり、特にこれらの分野は院内の診療の中でも力を入れている。

犬の視力はどのくらい?色の識別能力や視力低下時の対処法を解説【獣医師監修】

犬の視力はどれくらい?

実は、犬の視力は人間よりも弱く、人間でいうと0.20.3程度の視力しかありません。焦点を合わせる能力が低く、視界はぼやけて見えていると言われています。

 

ただし、犬は嗅覚と聴覚が非常に優れているため、視力が低くてもものを立体的に把握できます。嗅覚は五感の中でも最も優れており、人間の1,0001億倍ほど。聴覚も聞き取れる音の範囲が広いうえ、人間が聞こえる音量の約6分の1程度の音でも聞き取れるのだとか。

 

このように優れた嗅覚と聴覚が視力を補ってくれているため、視力が0.20.3であっても、同程度の視力を持つ人間よりも世界をはっきりと知覚できているのです。

なぜ犬の視力は弱いの?

犬の視力は?_目を細める犬

犬の視力が弱いのは、人間とは違った目の構造を持っているためです。それぞれ詳しく見ていきましょう。

 

水晶体が分厚い

犬の水晶体は人間よりも分厚く、67ミリ程度の厚さがあるため、水晶体の厚さを調整してピントを合わせるのが難しくなります。

 

ピントを合わせる目の筋肉が弱い

ピントを合わせるための毛様体と呼ばれる筋肉の機能が、人間よりも低いのも原因のひとつです。ピントを合わせるのが得意ではないため、ものをはっきり見ることができません。

 

光を反射する構造が目にある

犬の目には「タペタム層」という、光を反射させてより反応しやすくする特有の構造があります。このタペタム層が光を拡散してしまい、ものがぼやけて見えやすくなるとも考えられるでしょう。

犬は色の識別が苦手?

犬の視力は?_犬の目カメラ

実は、犬は色の識別が苦手で、人間が見ている世界とは異なった色の世界を見ています。犬が色の識別を苦手とする理由などについて詳しく見ていきましょう。

 

色の識別が苦手な理由

犬の網膜の構造は人とは異なり、色を識別するための細胞である錐体細胞の種類が人間よりも少ないです。そのために色を認識する能力が低いと考えられています。

 

犬が認識できる色

犬が正しく認識できる色は、青、黄色、青と黄色の中間色と言われています。特に、赤と緑は区別が苦手な色と言えるでしょう。遊ぶ場所によってはおもちゃと地面(床や芝生)の色が区別しづらく、おもちゃを見失ってしまうことがあります。

 

上記の写真は犬が見ている視界と人間が見ている視界を比較して見ることができるカメラアプリ「犬の目カメラ」(※)を使用して撮影したものです。犬の視力には個体や犬種によって差がありますが、今回3才の小型犬に設定して撮影したところ、全体的に黄色がかって見えており、オレンジ色のボールも黄色に見えていることがわかります。

 

※「犬の目カメラ」は、研究機関等により公開されている犬の視覚データを使い、犬の視覚を疑似シミュレートするアプリです。医療機関での診断に代わるものではなく、確定的な診断を行うものではありません。

犬種によって犬の視力に差はあるの?

犬は視力が弱い動物ですが、中には視力の優れた犬種もいます。一般に視力がよいと言われているのは、サイトハウンドと呼ばれる犬種です。サイト(=視覚)という名の通り、視覚で狩りをする犬種のため、視力が優れていると言えます。具体的には、イタリアングレーハウンドやサルーキー、ウィペットなどの犬種です。

犬の視力の優れた点は?

犬の視力は?_くらい草原に立つ犬

犬は視力が弱いと言われる一方、犬の視力には人間よりも優れた点もあります。具体的にどのような点が優れているのか詳しく見ていきましょう。

 

動体視力

犬は本来、狩りをして生活をしていた動物です。そのため動体視力が非常に発達しており、800m先で動く標的を見分けられるという説もあります。

 

暗い場所でもよく見える

先ほどお話ししたように、犬の目には、人間にはないタペタム層という構造があり、少ない光を反射して物体を認識しやすくしています。そのおかげで、暗い中でもしっかりとものを認識できるでしょう。

 

視野が広い

人間の視野が180°ほどなのに対し、犬は250270°ほどの広い視野を持っています。そのため、前方だけでなく、斜め後ろの対象物も目で捉えることができるのです。

犬の視力が低下することはある?

人間と同じく、犬の視力もさまざまな理由で低下してしまうことがあります。視力が低下する主な原因としては以下の2つです。

 

老化

老化によってピント調節機能や光を取り入れる機能などが弱くなることで視力が低下します。

 

白内障

白内障は、水晶体と呼ばれる目のレンズ部分が病的に変性する病気です。白内障を患うと水晶体の周囲の構造にも炎症が広がるため、視力が低下します。

犬の視力が低下した際の症状は?

犬の視力は?_フードを与えられた犬

犬は言葉で訴えることができないため、犬の視力が低下しているかどうかは、飼い主が気づいてあげる必要があります。犬の視力が低下した際の症状について詳しく見ていきましょう。

 

物にぶつかる

以前は障害物を上手に避けていたのに、壁などにぶつかるようになった、などの行動の変化が見られる場合は、視力が低下している可能性があります。

 

フードを出されたときに気づきにくくなる

匂いの強いフードでない場合、視力が低下していると、フードを目の前に置いても気づかず、探そうとするそぶりを見せることがあります。

犬の視力の測り方は?

犬の視力の測り方は人間の視力検査とは異なります。動物病院で受けられる犬の視力検査は主に以下の2つです。

 

綿球落下試験

犬の目の前に脱脂綿の球を落とし、綿球の動きを目で追えているかどうかで視力を確かめます。

 

対光反射テスト

目に光を当てることで、瞳孔の大きさが変わってきちんと光に反応しているかどうかを確認します。

犬の視力が低下した場合の対処法は?

犬の視力は?_撫でられている犬

愛犬の視力が低下してしまった場合、飼い主としてどのように対処すればいいのでしょうか。普段の生活の中で気をつけてあげたいことを紹介します。

 

床や家具をバリアフリーにする

視力が低下すると、小さな段差につまずいたり、家具にぶつかったりしてケガをする可能性があります。床の段差をなくす、家具の角対策をするなど、家の中をバリアフリーにしてケガを予防してあげましょう。

 

段差に気をつける

視力が低下すると段差に気づきにくくなるため、つまずいてケガをしたり、歩くことに恐怖を覚えたりして愛犬がストレスを感じることがあります。散歩のときは段差の多いルートを避けましょう。

 

触る前に声をかける

視力が低下することで不安になり、警戒心が高まっている可能性があります。体に触れる前には必ず声をかけるなどして安心させてあげましょう。

 

安心できる環境づくり

視力は、犬が安心して生活するために欠かせない五感のひとつです。それが欠けることで不安を感じ、神経質になっていたり、ストレスを抱えたりする犬は少なくありません。安心して生活できるよう、生活環境を見直して負担を軽減してあげましょう。