人間の「いい匂い」が、犬は嫌い。意外に多い嫌いな匂いを詳しく解説

人間の「いい匂い」が、犬は嫌い。意外に多い嫌いな匂いを詳しく解説

気持ち・生態

2023年08月21日 公開

上京どうぶつ病院院長。北里大学出身。日本獣医生命科学大学付属動物病院にて研修後現職。

人間の「いい匂い」が、犬は嫌い。意外に多い嫌いな匂いを詳しく解説

犬は人間の100万倍の嗅覚を持つ

犬は人間の100万倍の嗅覚を持つ

犬にとって匂いを嗅ぐことは本能的な行為であり、さまざまな情報を得ていると言われています。嗅覚は人間の約100万倍です。100万倍とは、人間より100万倍匂いを強く感じるのではなく、空気中を漂う匂いの濃度が100万分の1に薄まっても感知できることを意味します。犬は匂いを感じる鼻の面積が人間の約40倍で、匂いを感知する細胞の数は人間が約500万個であるのに対して、犬は1億2,000万~3億個と多いため、匂いを敏感に嗅ぎ取ることができるようです。


なお、1,000倍~1億倍という話もありますが、幅があるのは、犬にとって反応しやすい匂いと、反応しにくい匂いがあるためです。特に他の犬や食べ物など生きるために必要な匂いには敏感ですし、刺激臭においては人間の約1億倍も敏感に嗅ぎ取れます。また、人間の汗の匂いに含まれる酢酸や、足の裏の匂いである吉草酸(きっそうさん)は、嗅ぎ分けることが得意です。警察犬も、地面に鼻をつけて人間の体から落ちた細胞の匂いを感知して犯人を追跡しています。


このように犬の嗅覚は優れているので、人間が気にしない匂いでも不快な思いをします。犬が嫌いな匂いを知っておけば、愛犬が気持ちよく過ごせる空間を維持することができるでしょう。また、マーキング行為に困っている、近寄ってほしくない場所があるといった場合は、嫌いな匂いを活用したトレーニングもできます。

犬が嫌いな匂い

犬が嫌いな匂い

犬が嫌う匂いは以下の10種類です。犬が嗅いだときの反応や、犬に与える影響についてそれぞれ解説します。

 

柑橘類

ライム、レモン、オレンジなどの柑橘類は、料理やドリンクに使われるほど、人間にとってさわやかな良い匂いです。しかし、皮に含まれるリモネンという成分が、犬の鼻の粘膜を刺激する匂いであるため、犬は嫌ってプイと顔をそむける匂いのようです。

 

香辛料

料理をおいしくするコショウ、シナモン、唐辛子、わさび、ネギなども、犬が嫌う匂いです。コショウは人間もむせるほど刺激的な匂いがあるので、犬はなおさら強い刺激を感じるでしょう。また、香辛料は植物の実、種、茎、根などから作られているものが多く、それらが犬にとって毒性がある場合も少なくありません。少量でも食べてしまうと健康に悪影響を及ぼす可能性がありますので、誤って口にしないよう注意が必要です。

 

らっきょう

らっきょうは、犬に食べさせてはいけない玉ねぎやネギ類に属します。犬が独特な匂いを放つ、らっきょうに自ら近づくことはないと思いますが、誤って口にした場合は命に関わりますので、すぐに動物病院に連れていってください。

 

コーヒー

コーヒーの匂いは嫌いとまでは言わないまでも、好まない犬が多いようです。コーヒーに含まれるカフェインを解毒する機能が犬にはありませんので、大量に口にしないように気をつけましょう。少量であれば命に関わることはありません。

 

酢は犬が嫌う代表的な匂いです。刺激臭は人間の約1億倍も敏感に嗅ぎ取ることができますので、酢の独特なツンとした匂いは、犬には強すぎるのでしょう。徐々に慣れてしまう犬もいるようですが、多くの犬は苦手とする匂いのようです。

 

アルコール

アルコールは、犬にとって体内で分解できない危険な物質で、匂いを嗅ぐだけでもフラフラと酔ってしまう犬もいるようです。アルコールを飲んだ人の息の匂いにも敏感に反応するほど、犬がとても嫌う匂いです。アルコール飲料の中には、犬が好む香料を含むものもあるため、目を離したすきに嗅いだり舐めたりしないように取り扱ってください。なお、アルコール消毒をした手にも反応する場合があります。

 

タバコ

タバコの匂いや煙は喉や鼻を刺激されるので、ほとんどの犬が嫌います。室内、洋服、カーテンについた匂いさえストレスになるようです。それ以前に、受動喫煙や三次喫煙による健康被害もありますし、副流煙でアレルギー性鼻炎にかかってしまう犬もいます。食べてしまうと命に関わる危険もありますので、犬が近づける場所には置かないでください。

 

ハッカ

好き嫌いに個体差はありますが、犬だけでなく、猫やハムスターなど多くの小動物、虫が苦手としている匂いです。犬用の虫よけスプレーに用いられている匂いでもあり、猫やハムスターにも影響があります。他の動物も一緒に育てている飼い主は、スプレーする場所や量に注意しましょう。

 

マニキュア

人間でもいい匂いとは思えないマニキュアの独特の刺激臭は、犬も苦手です。刺激臭の元は、素早く乾くように配合された揮発性溶剤です。飼い主がマニキュアを塗っているときに同じ部屋にいるだけで具合が悪くなる犬もいるようです。刺激臭は、人間が感じる以上に強く感じますので、犬とは別の部屋で換気をしながら塗ると良いでしょう。マニキュア同様、揮発性の強いものにガソリンや消毒液があります。

 

香水

長く香るように調合された香水は、多くの犬が嫌うようです。強い香りの柔軟剤、整髪剤、化粧品も同じ。人工的なものを多量に吸収すると体調を崩し、体内で処理できず蓄積されてしまいます。犬にとって自然界に存在しない匂いは警戒対象と認識するため、嫌いな匂いだと考えられています。

犬が好きな匂い

犬が好きな匂い

鋭い嗅覚で感じ取った瞬間に、犬が大喜びする匂いもあります。ここでは犬が好む匂いと、匂いの元についてまとめました。

 

飼い主の匂い

服や寝具など飼い主の匂いが強く残っている場所で寝ている愛犬は多いのではないでしょうか。スリッパや靴をベッド代わりにして寝ている姿も珍しくないと思います。靴下やブランケットをくわえて、自分の寝床に運ぶエピソードもよく聞くかもしれませんね。飼い主の匂いは愛犬にとって安心する匂いです。動物病院に連れていくときや、ペットホテルに連れていくときは、犬自身の匂いはもちろん、飼い主の匂いがついたものをケージの中に入れてあげると安心してくれます。

 

タンパク質の匂い

肉、魚、ドッグフード、チーズなどは犬の大好物です。タンパク質の匂いが好きで、肉や魚を焼いたときに漂う匂いを鼻で追ってクンクンと嗅いでいる様子を見たことがある飼い主は多いのではないでしょうか。また、犬は生き物など生きるために必要な匂いに敏感なので、動物の血の匂いにも興味を示します。そのため、生肉の匂いが好きな犬も多いようです。

 

おしりの匂い

散歩中の犬同士がおしりを嗅ぎあうのは、よく見かける光景です。肛門からの分泌液は犬の個体毎に異なる匂いであり、お互いに個体を識別するために積極的におしりの匂いを嗅ぎます。他の犬にマーキングの意味で肛門を擦りつける場合もあるようです。

犬にストレスの少ない匂いの選び方

犬にストレスの少ない匂いの選び方

飼い主が身につけたり、室内に置いたりする匂いを選ぶ際の着眼点を紹介します。

 

香水

香水は、匂いのきつくないものを選ぶようにしてください。人間には人気のある柑橘系の香水は、愛犬からは嫌われてしまいます。また、愛犬に咳、くしゃみ、下痢、嘔吐が見られたら、香水の匂いに反応している可能性があります。

 

芳香剤や消臭剤

できれば、ペット用の芳香剤や消臭剤を選んでください。芳香剤や消臭剤の匂いがきつい場合は鼻の乾燥を引き起こすことがあります。ひどくなった場合にはひび割れや出血などを起こしますので、ワセリンや犬用のクリームを鼻に塗って保湿するようにしてください。

アロマの匂いはNG

アロマの匂いはNG

アロマを焚くことはやめたほうが賢明です。現時点で、すべてのアロマオイルに毒性があるとは断定はできていませんが、同時にすべてのアロマオイルの安全性が確認されているとも言えません。アロマオイルは「天然香料」「エッセンシャルオイル」「フェノール(化学的に合成された香料)」を、アルコールや植物油などで希釈したものです。フェノールは哺乳類にとって急性毒性がありますし、前述の通り犬はアルコールの解毒ができません。嗅覚も優れているので、人間にとって良い匂いが、犬にとって嫌な匂いになる可能性は高いでしょう。

 

刺激が強く危険な匂い

精油として抽出される植物のうち、特に刺激が強い匂いをタイプ別にまとめました。

 

ハーブ系

カラマス

カンファー

サンタリナ

ストエカス

セイボリー

タンジー

ヒソップ

マグワート

マスタード

ヤロー

ラベンダー

ワームウッド

スパイス系

アニス

オレガノ

カシア

クローブ

ジュニパー

ウッディ系

ウィンターグリーン

サッサフラス

バーチ

その他

アーモンド

ウォームシード

ルー

 

また、犬の体調によって健康被害をもたらす匂いもあります。たとえば、精油100%の希釈していないティーツリーオイルは中毒の危険性、ローズマリーにはてんかん誘発の可能性があります。

まとめ

犬の嗅覚は人間の約100万倍。刺激臭などの強い匂いの場合は1億倍の感覚があるようです。どういう風に匂うのかを想像することは難しいことですが、20km先の匂いを感じることもできるそうです。帰宅途中の飼い主の匂いを感じとって玄関で待っているかと思うとかわいいですよね。そんな愛犬を嫌いな匂いとストレスから守れるよう、健康的に暮らせる空気環境を整えてあげてください。