犬の脱水症状に注意!原因と病院に行くべき症状、予防法について解説【獣医師監修】

林美彩(獣医師)

林美彩(獣医師)

chicoどうぶつ診療所所長。体に優しい治療法や家庭でできるケアを広めるため、往診・カウンセリング専門の動物病院を開設。

犬の脱水症状に注意!原因と病院に行くべき症状、予防法について解説【獣医師監修】
犬の脱水症状に注意!原因と病院に行くべき症状、予防法について解説【獣医師監修】

目次

  • ・ 犬の脱水症状とはどのような状態のこと?
  • ・ 犬の脱水症状の原因は?
  • ・ 犬が脱水症状を起こしたときに見られる症状
  • ・ 犬の脱水症状を見分ける方法は?
  • ・ 犬の脱水症状の原因として考えられる病気
  • ・ 脱水症状になった犬が危険な状態になったらどうすればいい?
  • ・ 犬の脱水症状の予防法は?

脱水症状というと、人間ならば大量に汗をかく夏や、病気で嘔吐下痢をしているときに注意すべきものという認識ですよね。ところが、犬の場合は人間に比べて喉が渇くという感覚があまりないのと、暑い時期以外はあまり水を欲しがらない子が多いので、脱水症状にはより注意が必要です。命にかかわることもあるため、通年で注意してあげなければいけません。そんな犬の脱水症状について、獣医師でchicoどうぶつ診療所所長の林美彩先生に症状や予防法を解説していただきます。

犬の脱水症状とはどのような状態のこと?

犬の脱水症状に注意!原因と病院に行くべき症状、予防法について解説【獣医師監修】脱水とは体液が少なくなっている状態のことで、脱水によって起こる症状を脱水症状と言います。水分とともに細胞の浸透圧や細胞の働きに関わる電解質も不足することで、身体にさまざまな不調を起こします。

脱水が起こるメカニズム

水分の摂取が不足する一方で体内から過剰に失われ、本来必要とする水分量が保てない状態を脱水と言います。これは、下痢や嘔吐などによりたくさん水を失ったときや、食事や水分の摂取が制限されると起こりやすくなります。

犬が1日に必要とする水分量とは?

犬にとっての1日に必要な水分量は体重(kg×0.75×132ml)です。また、一日に必要なカロリー=一日の必要な水分量として算出される場合もあります。ドライフードをメインで食べている場合には、フード自体に水分がほとんど含まれていないので、1日にどれだけ水を飲んだかを計量カップなどで計ることでおおよその水分摂取量が分かると思います。

犬の脱水が一年中起こる理由は?

犬の脱水症状は、夏は熱中症によって引き起こされることが多いですが、冬は水分摂取不足だけでなく、暖房の効いた部屋やこたつの中で長時間過ごすことから起こることがあります。その他、疾患による脱水もあります。犬は喉の渇きを感じづらく、シニア犬の場合には特に渇きに鈍感になるうえ、水を飲まないことが多くなるため、水分摂取量が低下して脱水しやすくなります。

犬の脱水症状の原因は?

脱水症状は水分の摂取と排出のバランスが取れずに水分が不足することで起きますが、さまざまな原因が考えられます。体内に水分が不足していても、犬が自分から摂取しない、または水を飲ませようとしても飲んでくれない場合もありますので、飼い主として工夫をすることが必要になってきます。ここでは主な脱水症状の原因を紹介します。

病気以外で起こる嘔吐や下痢

フードなどを変更することで、新しい食事が合わなくて胃腸に負担がかかったときなどに、嘔吐や下痢になり、そこから脱水を引き起こすこともあります。

利尿剤の使用

利尿剤は、体の水分を絞り出して尿量を増やすお薬ですので、必要以上の水分が排尿されることで、脱水が起こります。愛犬が心臓の疾患などで利尿剤を処方されている場合には、注意してあげましょう。

食事や水分を十分に摂れていない

単純に摂取する水分量が不足していることによって、脱水症状が起きます。

病気によるもの

消化器疾患や腎臓病糖尿病などが脱水症状の原因になることがあります。消化器疾患であれば嘔吐や下痢。腎臓病の場合には腎機能の低下による水分の余剰排泄。糖尿病の場合には尿中の糖分によって水分が引っ張られることで、排尿として水分が余剰に排泄されてしまうことが原因になります。その他、アジソン病(副腎皮質機能低下症)の場合にはナトリウム欠乏による脱水が懸念されます。

犬が脱水症状を起こしたときに見られる症状

犬の脱水症状に注意!原因と病院に行くべき症状、予防法について解説【獣医師監修】脱水はひどくなると命にかかわる場合もあります。愛犬が脱水症状になったときのサインを見逃さないようにしたいものです。どのように愛犬が脱水症状になっていると判断すれば良いのでしょうか。

皮膚に弾力がなくなる

脱水が起きていると、犬の皮膚が含む水分も無くなるのでみずみずしさと弾力を失います。

食欲が落ちる

通常よりも食べる量が減ったり、食べたりする意欲が落ちます。

嘔吐、下痢

嘔吐で胃の中にあるものを吐き出してしまうことで、体内の水分を失います。また、頻繁に便意を催し、排便回数が増える下痢の時は、便の水分量が多くなるため脱水になることがあります。

犬の脱水症状を見分ける方法は?

前述したような症状が出ていて、愛犬が脱水症状を起こしているかもと思った場合は、以下のような方法で見分けるようにしましょう。

皮膚をつまんでみる

脱水症状として皮膚の弾力がなくなることを前述しました。これを利用して脱水症状を確認する「ツルゴール(皮膚の張り)テスト」というものがあります。皮膚をつまんで離したとき、元の状態に戻るまで2秒以内であれば正常、それよりも時間がかかる場合には強い脱水が起きていると考えられます。

犬の水の飲む量が増える

体内の水分不足で単純に飲水量が増えている可能性があります。

犬の体重が急に減少する

脱水で体内の水分量が減りますので、減った水分量の分の体重も減少します。体重の推移については常にチェックするようにしましょう。

呼吸が荒い

体内の水分が不足することで、次第に臓器の血流が減り、内臓が正常に働かなくなります。そのため、動悸や息切れを起こし、呼吸も荒くなります。

元気がなくなる

寝ている時間が長くなったり、散歩に行きたがらなくなったりするなどの活発さがなくなります。

息苦しそうにする

脱水によって呼吸数が早くなり、息苦しそうな様子になります。

おしっこが濃い、量が少ない

水分が減りますので、尿が濃縮されて色が濃かったり、量が少なくなったりします。

犬の脱水症状の原因として考えられる病気

犬の脱水症状に注意!原因と病院に行くべき症状、予防法について解説【獣医師監修】下痢や嘔吐など、体内の水分を直接に排出してしまう症状以外にも、脱水症状を起こしやすくする疾患があります。もし、愛犬がここに挙げる持病を持っていたら、特に注意してあげてください。

下痢や嘔吐を引き起こす病気

嘔吐や下痢が起きることで過度の水分が排泄されることで、脱水が起きると考えられます。感染性腸疾患、炎症性腸疾患、消化管腫瘍、中毒、食物アレルギー、膵炎、腸閉塞などは、消化管に炎症が起きていたり、水分再吸収が行いにくくなっていたりすることが原因で嘔吐や下痢を引き起こしやすくする疾患です。

糖尿病

尿中の糖分に水分が引っ張られることにより、尿量が増えて脱水が起こります。

熱中症

暑い季節に犬が大きな口を開いて、ハアハアと息をすることをパンディングといいます。熱中症やそれに近い状態の時に、この体温を逃すためのパンティングを行うと体内の水分も一緒に出てしまうため、脱水が起こりやすくなります。

腎臓病

腎臓での水分再吸収が行われにくくなることで、必要以上の水分が排尿として出てしまうため、脱水症状を起こしやすくなります。

副腎皮質機能低下症(アジソン病)

副腎皮質機能低下症は、副腎皮質から分泌されるホルモンが少なくなることで起こる病気です。症状としては、食欲不振や下痢、嘔吐などが挙げられます。これらの症状により脱水が起こることがあります。

脱水症状になった犬が危険な状態になったらどうすればいい?

犬は体重の約70%が水分で構成されていると言われています。その水分の10%が失われると脱水症状を引き起こし、それ以上失うと臓器に悪影響を及ぼしショック状態で死に至る危険性があります。

自宅で行える応急処置は?

少しずつ水分を摂らせるなどの方法があります。薄めたスポーツドリンクでもよいですが、ペット用のものが販売されているので、そちらを使ったほうが安心でしょう。口から少しずつ水分を与えるのが良いですが、それだけで症状が改善しない場合が多いのでできるだけ早く病院を受診しましょう。

病院に連れていくべき危険な状態とは?

脱水は軽い症状であれ、犬の臓器に負担をかけるものですが、とくに下記のような症状が見られた場合は一刻を争います。こうなると、自宅で水を飲ませようとしても手遅れになる場合があるので、急いで病院を受診させてください。

 

・立てない、歩けない状態になっている

・体が極端に熱い、または冷たい

・体の一部、または全身がけいれんしている

・声かけをしても反応がない、または反応が鈍い

・おしっこがほとんど出ていない

・血の混じった嘔吐や下痢をしている

犬の脱水症状の予防法は?

犬の脱水症状に注意!原因と病院に行くべき症状、予防法について解説【獣医師監修】脱水症状にならないために水を与えても、犬が飲んでくれないこともあるので、愛犬に水分を摂らせるためには工夫が必要です。以下のような方法を試してみるようにしましょう。

ウェットフードに切り替える

ドライフードから水分を多く含んだウェットフードに変更するのもよいと思います。ドライフードをふやかす際、どの程度の水分を入れたかを把握することが重要です。

新鮮な水に交換する

汚れた水だと飲まない子もいるので、新鮮なものに変えて飲水量が増えるかどうか観察してみてください。

水の容器や置く場所を変える

容器の材質や容器の高さ、置き場所によっても飲水量が変わりますので、愛犬の水分量が確保できるもの・場所を把握しましょう。水の形態(流れるタイプなのか、置いてあるタイプなのか)によっても飲水量が異なることがあります。

スポイトで飲ませる

自力での水分摂取が難しい場合などには、スポイトで与えるのも有効です。与える際は一気に与えてびっくりさせないように気を付けて、ゆっくりと流し入れてあげましょう。

専門家の コメント:

人間ならば、気をつけることである程度予防できる脱水症状ですが、喉の渇きを感じにくい犬が自分でコントロールするのは難しいようです。脱水に陥りやすい疾患を持つ子やシニア犬はもちろん、たとえ愛犬が健康であっても、飼い主が気をつけてケアしてあげるのが望ましいですね。脱水症状が重度になってしまうと、飼い主の対応が生死を分けることもあるので、的確に判断して、必要ならば早いうちに病院へ連れていくことをオススメします。

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