2023年10月27日 公開

ペットカートのある暮らしを提案する『AIRBUGGY(エアバギー)』

愛犬とのお出かけに便利なペットカート。ワンちゃんと一緒に行ける場所の幅が広がるだけでなく、夏の暑さや混雑・災害からワンちゃんの安全を守るのにも役立ちます。

ペット用品の定番の一つとして普及が進んでおり、街中やイベントなどで目にする機会も多くなったのではないでしょうか。
そんな日本でのペットカート市場をリードするメーカーといえば『AIRBUGGY(エアバギー)』。いまでは年間の売り上げ台数が2万台を超えるほどの人気商品ですが、開発当初はさまざまなハードルにぶつかったといいます。
「当時はまだ、ペットはモノ扱い。『犬は歩かせればいい。犬をカートに乗せるなんて』と笑われたこともありました」
そう語るのは原口敬太社長です。
『AIRBUGGY』のペットカート開発を手がけた原口敬太社長に、開発の背景や製品の特長、ペットを取り巻く社会環境の変化などについて聞きました。
『AIRBUGGY』のペットカートをゼロから立ち上げた背景

『AIRBUGGY』は、もともとは3輪ベビーカーの製造メーカーです。
当時の日本では、ベビーカーに軽さが求められていた反面、操作性や乗り心地はあまり重視されていませんでした。そのような中で、同社の創業者である飯田美恵子会長が3輪ベビーカーをハワイで見て衝撃を受け、日本でも操作性の良いベビーカーを作ろうと2002年に立ち上げたのが『AIRBUGGY』でした。
「『AIRBUGGY』で歩くことを通じて社会やユーザーさんのライフスタイルを豊かにし、新しい出会いや発見を提供したい」という理念のもと、現在ベビーカー、ペットカートを中心に日本だけでなく海外でも展開しています。
現社長の原口さんは、入社後すぐに中国の工場に赴任し、品質管理を担当。2007年に帰国し、生産管理や営業、企画開発、経営などに一通り携わったのち、2021年に社長に就任。同社がペットカートを開発した際には企画・開発の責任者を務めており、『AIRBUGGY』ペットカートの「生みの親」とも言える存在です。
大切に生み出したペットカートだから、長く快適に使い続けてほしい
『AIRBUGGY』を通して、ベビーカーの製品開発に長く従事し、良い製品を世に送り出しているという自負ある一方で、ベビーカーの使用期間は長くても2、3年。せっかく良い製品を作っても、赤ちゃんが卒業してしまうとその後使い道がなく、廃棄されてしまうという悩みも抱えていました。
もともと非常に頑丈なフレームでシンプルな構造の『AIRBUGGY』。エアタイヤなどの消耗部品を適切にメンテナンスできれば、10年は使用可能なベビーカーです。
このフレームにペットを乗せることができれば、飼い主さんとワンちゃんの「一緒にいたい」「一緒に思い出を作りたい」という願いが叶うペットカートとして役立つことができるのではないかというアイデアが生まれました。
そして、ちょうど2頭の愛犬を迎えた現会長の飯田さんと、愛犬と暮らしていた経験がある原口さんを中心に、ペットカートの開発プロジェクトがスタートしました。
本気で犬や飼い主のことを考え、50台以上の試作を重ねた
ペットカートの開発が始動した2008年頃、原口さんは中国のベビーカー工場で、ペットカートの生産の現場も目にしていました。
しかし、「モノを運ぶ」ような簡易的なもので、タイヤはガタガタ、ベビーカーに設けられているような安全規格もありませんでした。
「当時はまだ、ペットはモノ扱いで、1つの命という概念が感じられなかったんです。本気でワンちゃんや飼い主さんのことを考え抜いたカートは、世の中に存在していなかったと思いますね」
ただ、当時は市場もなく、周りからは
「売れるのだろうか」
「ワンちゃんのカート需要なんてあるの?」
と、疑問視されたり反対されたりもしたそうです。
それでも、原口さんはまず「売ること」よりも「市場を作ること」を目指して開発に取り組みました。
完成までに作った試作品はなんと約50台。社員の愛犬を会社に連れてきてもらい、試作と試乗を何度も繰り返しました。
「ワンちゃんも赤ちゃんも話すことはできませんが、もし話すことができれば『このカートが一番!』といってもらえるような製品を作ろうと思いました」と、開発への熱意を振り返ります。
そうして完成したペットカート「DOMEシリーズ」は、2010年に発売。

さらに1つのフレームをベビーカー・ペットカート・ショッピングカートとして使える「3 in 1」の概念を打ち出しました。
さまざまなライフシーンに合わせて長く使える『ライフバギー』として、グッドデザイン賞にも輝いたのです。

約2年は売り上げが伸びず苦労…うれしい声や口コミが自信に
『AIRBUGGY』のペットカートは、とにかく歩きやすさと乗り心地にこだわって作られているのが特長。

自転車と同じ中空式のエアタイヤを採用しているので乗っているワンちゃんに与える振動が少なく、タイヤの外径を人の歩幅に合わせるなど、快適にカートを押して歩くための工夫が盛り込まれています。そのため段差に引っかかるストレスもなく、芝生や砂利道でもスムーズに歩けます。
「実は普通に歩くよりも、エアバギーを押して歩く方が楽なんです。一駅分くらいなら電車に乗るより歩いちゃったほうがラクというユーザーさんの声をよく聞きます」と原口さんはいいます。
しかし、『AIRBUGGY』ペットカートは発売してすぐにヒットしたわけではありません。最初は売り上げが思うように伸びず、約2年ほど苦労しました。
「値段の高さもありますし、当時はまだ愛犬を連れて一緒に行ける場所も少なく、ペットカート自体が社会になじみがなかったこともあり、なかなか広まりませんでした。ただ、良い製品だということは乗り比べた人にはわかってもらえたと思います。使った方が口コミでご友人やショップに勧めてくださったおかげで評判がじわじわ広まり、今の人気があるんです」
また、ユーザーさんからのうれしい言葉もありました。
発売してすぐに、ペットカートを使ったウサギの飼い主さんから「ウサギは振動などのストレスに弱くて、最悪の場合には死んでしまうこともある。でも、『AIRBUGGY』なら安心して乗っていて、ウサギも喜んでいる」と連絡があったといいます。
「めちゃくちゃうれしかったですね。繊細なウサちゃんの飼い主さんにそう言ってもらえるなら、ワンちゃんも絶対大丈夫だろうと自信が持てました」
使いやすさより安全性。人気モデル「DOME3」発売に10年待った理由
『AIRBUGGY』のペットカートの中でも人気が高く、定番となっているモデルが『DOME3』です。初期モデル発売から10年後の2020年に発売されました。

既存のDOMEシリーズからの大きな変更点は、キャノピー(屋根)の開閉方法とサイズ感です。以前のモデルは、屋根が中央から開く形でフルオープンにはできず、ワンちゃんの飛び出しを防止していました。ワンちゃんの中には、車のクラクションや他の犬に興奮して飛び出してしまう子もゼロではない。可能な限りリスクを減らし安全に使っていただけるように考えていました。

「屋根を常に開けておきたい」という要望も多く寄せられており、ニーズがあるのも承知の上でしたが、すぐには変更しませんでした。
「まだ社会にペットカートが少なかったので、使いやすさを優先しすぎてしまうと安全性が担保できないと考えました。ユーザーさんが増え、ペットカートに対する社会の認識も変わり、利用者の安全意識が育つのを待っていたんです」
そして2020年に、10年間温められたフルオープン可能な『DOME3』が満を持して登場。原口さんも驚くほどの反響があったそうで、初期モデルの発売当初は年間500台ほどだった売り上げ台数も、たちまち年間2万台を超えるヒット商品となりました。

飼い主さんと愛犬が安心して使える、アフターサポートの充実
『AIRBUGGY』の強みについて原口さんは、「操作性・快適性だけではなく、サービス体制が充実している点です。ベビーカーで培った製品のフォローやメンテナンスの体制があるからこそ、『長く使える』というお客さまとの約束を守れるのです」と強調します。

近年になってさまざまなメーカーからペットカートが販売されていますが、修理体制をしっかりと備えている製品は多くはないそうです。1、2年で壊れてしまい、修理もできないケースも耳にするといいます。
「『AIRBUGGY』はしっかりとメンテナンスすれば10年以上使えます。実際に、2010年に購入した初期モデルをいまでもメンテナンスして使っている方もいますよ。そんなお話を聞くと『僕たちはしっかり約束を守れているな』と、うれしくなります」

世界的にペットカートを牽引する存在になったからこその責任
最初にペットカートを発表した2010年と比べて、ペットを取り巻く社会は大きく変わりました。

ペットカートで一緒にお出かけしているワンちゃんと飼い主さんを見かける場面も多くなり、ワンちゃんと一緒に入れるお店も増えています。
「ワンちゃんも飼い主さんも本当にうれしそうですよね。飼い主さんはワンちゃんを連れていると思っているけど、実はワンちゃんのほうが『ボクが飼い主を歩かせてあげてるんだ』みたいな顔をしているときもありますよね」

以前は老犬になって歩けなくなるワンちゃんのためにペットカートを購入する方が多かったそう。しかし現在はワンちゃんをお迎えする際に、カートを準備する家庭も増えたといいます。
ワンちゃんと飼い主さんの生活において、ペットカートが少しずつ「当たり前」になってきています。
「社会がワンちゃんと飼い主さんを受け入れてきたことがとても嬉しくて、少しでも『AIRBUGGY』が貢献できたならよかったです」
アジアを中心に海外輸出もしており、「ペットカートといえば『AIRBUGGY』」と言われるほど業界を代表する存在となりました。
「うれしい反面、良いものを作り続けなきゃいけないし、お客様をがっかりさせてはいけない。責任をすごく感じています」と原口さんは自身を引き締めています。
犬とのお出かけをサポートし、ペットに優しい社会を目指す
小型犬用のメインモデル『DOMEシリーズ』のほかにも、中型モデルの『CUBE』やキャリー型の『FITT』、バックパックなど、さまざまなニーズに応えて製品を展開させている『AIRBUGGY』。


「よくリクエストを頂くのが、超大型犬用のカートですね。ニーズは多くないですが、今後も飼い主さんの要望に応えていきたいです」とのこと。
また、同社が大切にしている「歩くこと」とペットカートを連動させたサービスも検討しています。
「飼い主さんの健康にアプローチしたり、ペットカートで歩いた歩数に応じたサービスを提供したりなど、できたらおもしろそうですよね」
『AIRBUGGY』は、愛犬との楽しい思い出の提供だけでなく、ワンちゃんと出かけられる場所を増やすことにも貢献しています。
同社の公式HPには「おでかけガイドマップ」というページが設けられています。ワンちゃんと出かけられるスポットをユーザーがマップ上に投稿する仕組みで、現在400件近く掲載されているそうです。
「愛犬と飼い主さんとお出かけへの関わり方において、『AIRBUGGY』にしかできないことがあると思います。飼い主さんには、『AIRBUGGY』のペットカートでどんどんお出かけして、安全で快適な思い出をペットと一緒に作ってもらえたらうれしいです。そして、もっともっとペットに対して優しい社会になることを願っています」
